トークンエコノミーの基礎知識

いきなりですが、書き終わるのに半年かかりました(笑)。2018年3月の米国SXSW参加をきっかけに書いた「ブロックチェーンのトラストレスとは何か?」で「トークンエコノミーの記事を書きます」と宣言してからリサーチと考察を重ねましたが、とにかく奥が深い。ようやく議論の下地が整いましたので、書きたいと思います。

ご存じの通り「トークン(Token)」は、もともと地下鉄の乗車券やゲームセンターでゲームを遊ぶのに使われる「代用硬貨(コイン)」という意味です「トークンエコノミー(Token Economy)」は、ビットコインの発明とともに登場したさまざまな暗号通貨やブロックチェーン技術により、新たにフィーチャーされた(特徴づけられた)概念です。

「暗号通貨(Crypto Currency)」のうち「イーサリアム(Ethereum)」や「ネム(NEM/XEM)」などがプロトコル(コンピューターが通信をする際の手順や規約)を定めることにより、企業やプロジェクトによるトークンの発行が一気に広がりました。

このトレンドを牽引したのは、トークン(コイン)を発行/販売することで資金を調達する「ICO(Initial Coin Offering)」プロジェクトです。2018年7月末時点でICOによる資金調達額の累計は200億ドル(約2兆2,000億円)のぼります。基本的に、ICOで発行されるトークンは暗号通貨のプロトコルをベースにしています。ICOプロジェクトの約83%がイーサリアムを選んでおり、同トークン・プロトコルで発行されたトークンはおよそ8万6,000種類あるそうです。

トークンについて知るべき3つのこと

ところが、ICOの雲行きはあやしく、アメリカ証券取引委員会(SEC)が詐欺が横行していると注意喚起を促しており、また日本の金融庁も「価格下落の可能性」「詐欺の可能性」を指摘しています。

「ICOはスキャム(詐欺)コインばかりだ」「暗号通貨バブルでも儲けたいだけだろう」という指摘は、たしかに否定できない側面があります。悪意のあるなしにかかわらず、ほとんどのICOプロジェクトは開発の過程にあり、そもそも利用者が存在しません。現状は、国家がコントロールする「法定紙幣(フィアット:Fiat Money)」を持つほうが圧倒的に安全です。

しかし、だからといってテクノロジーの価値を否定されたわけではありません。暗号通貨やブロックチェーン技術の発展や普及はまだまだこれからハイプサイクルの幻滅期だからこそ、いちど立ち止まってじっくり考えることが大切です。

本稿の目的は「トークンエコノミーの基礎知識」のタイトル通り、あまりに汎用性がありすぎて混乱しがちな概念を整理し、トークンエコノミーの議論のベースをつくることです。次の3つのポイントから、現時点で知っておくべきことをお伝えします。

以上について、共通認識を持ったうえで、読者のみなさまと「トークンエコノミーの未来」を議論できれば幸いです。

(1)まぎらわしいトークンの分類学

いちばん議論が錯綜するのがトークンの分類学(Taxonomy)です。現在進行系でプロトコルの開発が進んでいるため、なかなか共通理解を持ちづらいのが現状です。

たとえば、多くのトークンの基盤となっている暗号通貨のイーサリアムは、インターネットと同じようにRFC(Request for Comments)という形式で技術仕様が公開されており、それらは「ERC(Ethereum Request for Comment)」と呼ばれています。非常にたくさんの規格が提案されており、いまだ試行錯誤が続いていることをうかがわせます。

しかし、次々と生まれるトークンの仕様に対して、いちいち新たな分類を与えていてはキリがありません。また、法的な問題が取りざたされることが多く、金融の専門家や弁護士による難解な解説が多くなされているところ、一般人の私たちはもっとシンプルに理解したいものです。

そこで、現時点で最良と思われる(A)証券的トークン(セキュリティトークン:Security tokens)(B)実用的トークン(ユーティリティトークン:Utility tokens)2種類にしぼって、考えていきましょう。

(1-A)セキュリティトークン

セキュリティトークンは、厳密には法で定められた「証券(Security)」ではないものの、あたかも「証券のように」機能するようなトークンです。

あえて「株式的トークン(Equity tokens)」や「資産的トークン(Asset tokens)」と言い換えて分類されているケースもありますが、そもそも証券は財産の権利を記載するものですので、便宜上セキュリティトークンで包含します。

セキュリティトークンを理解するには、次の2つの特徴をおさえましょう。

第一に、セキュリティトークンは、あらゆる経済的に価値のあるもの(有価物)をトークン化する可能性があります。たとえば、10億円の価値があるピカソやゴッホの絵画があったとしましょう。その所有権を証券的なトークンにして1/10,000に分割すれば、1トークンあたり10万円で購入できます。つまり、価格のハードルが下がり「買いたい」という取引の参加者が増えます。

以前の記事「10分でわかるビットコインの本質」でも書きましたが、2000年以降に不動産を証券化した「REIT(Real Estate Investment Trust)」が登場したことで市場から大量の資金が不動産業界へ流入し、大規模開発が活況を呈しました。同じように、有価物が市場に出れば資金が流れ込み、流動性が上がることで経済が活性化することが想定できます。

そうしたことを期待してか、最近では有価物のセキュリティトークンを発行/販売することで資金を調達する「STO(Security Token Offering)」への期待が高まっているようです。

第二に、セキュリティトークンのメリットは、ユーザーが購入して値上がりしたら売却して利益を得られる「キャピタルゲイン(Capital gain)」だけではありません。株式や金融商品のように、セキュリティトークンの保有から配当や収入を得る「インカムゲイン(Income gain)」を設定することも技術的・理論的には可能です。(※収益資産の価値評価についてはDCFを参照)

セキュリティトークンに配当を設定することで、株式や金融商品と同じように購入者へ保有のインセンティブ(動機)を持たせることができます。長期間の保有を促すことで、大きな資産価格の変動を抑えることができます。

また、有価物のセキュリティトークンを発行/販売するSTOを使って調達した資金を使えば、計画的に価値の向上に努めることができるため、初期に多額の費用が求められるプロジェクトでは、とても使い勝手のいい手法となりそうです。その意味では、需要と供給でしか市場の価格が動かないピカソやゴッホの絵画より、ゼロイチで新たな価値を生み出す可能性があるプロジェクト的なものにいい影響を与えそうです。

しかしながら、セキュリティトークンは保有の割合に応じて収益の分配が行われるファンドのような性質を持ちます。この配当型のセキュリティトークンが大問題でした。

たとえば、米国証券取引委員会(SEC)による調査の対象になった「The DAO(Decentralized Autonomous Organization)」のケースでは、同ICOが証券法の「証券」に該当し、証券法の適用があり得るとの見解が出ています。

争点となったのはトークンに「投資契約(Investment Contract)」が含まれているかどうかです。つまり、「他社の経営努力により、利益を得る合理的な期待をして、共同事業に資金を出資した」かが判断の分かれ目だったと分析されています。

日本においても同様に、収益分配型のセキュリティトークンには、「金融商品取引法の適用すべき」との見解が出されています。もし同法の適用となった場合には、①登録義務(財務要件、人的構成要件etc.)、②行為規制(広告規制、虚偽告知等の禁止etc.)、③当局による報告徴求、検査、業務改善命令等の対象となる、などの制約を受けます。

そもそも「証券化」自体は目新しいものではありません。ブロックチェーン技術に基づくセキュリティトークンと連動させることで、低コスト且つスピーディーに運用できることが革命的だったはず。そう考えると、規制や制約により一般投資家の安全性は確保できるものの、トークン化の魅力自体が半減してしまいます。

では、ICOに関わるプレイヤーは、こうした規制や制約をどう考えているのか? 私が2018年3月に参加したSXSWのあるセッションでは、スタートアップのICO業務に携わる専門家が「世界のICOプレイヤーは、どうやってセキュリティトークンに分類されないか、あるいはユーティリティトークンとみなされるかに注力している」と述べていました。

現状は「ユーティリティトークンで何とかしよう」というのが主流のようです。しかし、日本でICOコンサルティング事業を展開してきたAnyPayが、シンガポールにグループ会社をつくり(会長は元グノシー共同代表の木村新司氏)、STOを支援するシステムを2018年中にリリースすると発表するなど新しい動きも出てきています。各国でルールが明確になれば、セキュリティトークンが一気に広がる可能性もありそうです。

(1-B)ユーティリティトークン

では、ユーティリティトークン(Utility tokens)とは、何でしょうか。ユーティリティの語源は「有用なこと」ですから、かんたんに言えば「いろいろなことに使えるトークン」です。その意味では、トークンの原義である「代用硬貨(コイン)」に近いものといえます。

では、国家が管理するこれまでの通貨との違いは何でしょうか? ユーティリティトークンは使える範囲や用途が限られるのが大きく違う点といえます。

たとえば、252万ドル(約270億円、2018年8月時点)の大型ICO案件となった分散型のオンラインストレージマーケットを目指すFilecoin(ファイルコイン)の事例で考えてみましょう。FilecoinはDropbox(ドロップボックス)のように、PCなどローカルにあるファイルをネットワーク上にある場所に保管するサービスであり、2019年のローンチを目指して開発中です。

彼らが目指すシステムは、余っているストレージを貸し出したい人と、そのストレージを使いたい人とをつなぐマーケットです。「家を貸したい人と借りたい人をつなぐAirBnBのようなもの」と述べており、ストレージを借りたい人がFilecoinのトークン(FIL)で入札し、貸す人が報酬としてトークンを受け取る仕組みです。

さて、ここで1つの疑問にぶつかります。FilecoinもICOによる事前のトークン販売により、巨額の資金を調達していますが、なぜユーザーはすぐには使えないFILのようなユーティリティトークンを買おうと思ったのでしょうか?

Filecoinだけではありません。ユーティリティトークンに分類されるICOプロジェクトはたくさんありますが、ホワイトペーパーと呼ばれる概要書やサービスイメージ動画を基に、トークンの販売で数億円から数百億円まで驚くほど多額の資金を調達しています。

株のような意味合いを持つセキュリティトークンならまだしも、冷静に考えれば始まっていないサービスでしか使えないユーティリティトークンを競って買い求める意味がよくわかりません。店舗がいない楽天市場の楽天スーパーポイントを事前購入するようなものです。なぜ世界中の人々はICOで売り出されるユーティリティトークンを購入したのでしょうか?

ポイントとトークンの決定的な違い

先に結論を言えば、みんなが「将来トークンの価格が上がる!」と期待したからです。

楽天スーパーポイントやTポイントなど、企業が発行するポイントは「1ポイント=1円」など、おおよそ価格が固定されています。「将来ヨドバシのゴールドポイントの価格が上がるかも」と思って、ポイントを使わずに持ち続ける人はいません。

しかし、Filecoinのトークン(FIL)は市場で売買されており、常に価格が変動しています。さらに、ホワイトペーパー上で総発行量が20億FILと定められています。つまり、あらかじめ発行量の上限が決められている。もし供給が限られている中で需要が増えれば、それだけトークンが不足することになるでしょう。言い換えれば、「将来Filecoinを使いたいと思う人が増えれば、FILトークンの価格が上がるにちがいない」と多くの人が考えたというわけです。

もし、Filecoinの決済がドルや円などの国家通貨ならば、そもそも使用価値だけでユーザーから資金を集めることはできません。同じように、ポイントだったとしても固定相場であるため価格の上昇は期待できず、購入する人は少数にとどまるでしょう。表に整理すると、次のようになります。

トークンが「エコノミー(経済圏)をつくる」と言われる理由は、経済的に価値のあるものをトークン化するセキュリティトークン的な意味合いに加えて、ユーティリティトークンの価格が変動するため「時価総額」に似た価値の尺度が生まれる点にあるのではないでしょうか。

さて、ここでみなさんはさらに疑問に思われるはずです。ICOにより数百億円も調達しているプロジェクトがあるにもかかわらず、一向に目立ったユースケースが見当たりません。実用可能なサービスがほとんど立ち上がっていないのです。なぜでしょうか? その理由は、トークンエコノミーを支える「仕組み」そのものの未整備にありました。

(2)致命的なスケーラビリティ問題

主要な暗号通貨の1つであるリップル(XRP)は「価値のインターネット(Internet of Value)」という言葉で、暗号通貨やブロックチェーンの意義を表現しています。インターネットを通じて空間を問わず情報やデータが瞬時に伝達できるように、あらゆる価値が瞬時にトランザクション(取引)される、という世界観です。つまり、暗号通貨やトークンにより、あらゆる価値が取引される未来においては、価値の移転や交換を行うトランザクション数が爆発的に増加することになります。

しかし、問題はネットワークのインフラ(基盤)である暗号通貨側のスケーラビリティ(Scalability:増大に対応できる能力)がまったく追いついていない点にあります。(そもそもPowの仕組み自体が「遅延型決済システム」だと『中央銀行が終わる日 ビットコインと通貨の未来』著者の岩村充氏は述べています)

たとえば、VISAカードのトランザクション数は平均で2,000取引/秒、最大で56,000取引/秒の許容があります。一方で、ビットコインは最大で7取引/秒です。結果として、トランザクションの処理が遅延し、手数料が増大してしまいます。(トランザクション手数料の考え方については、イーサリアムのGasに関する記事を参照ください)

各トークンは暗号通貨のプロトコル(コンピューターが通信をする際の手順や規約)に乗っかっていますので、暗号通貨側のトランザクション処理が詰まれば、同じように処理は遅延し、手数料も増大します。つまり、インターネットに置き換えて考えるならば、黎明期のダイアルアップ接続やISDNなどのナローバンド(低速な通信回線)であり、通信料金も恐ろしく高額な状態です。

暗号通貨や各ICOプロジェクトは、こうしたスケーラビリティの問題に直面しているのが現状であり、進めようにもインフラが整っていないため、なかば足止めを食らっているのです。

総務省の「情報通信白書」で「ブロードバンド元年」と位置づけられたのは2001年(平成13年)、ブロードバンド回線がナローバンド回線の利用率を初めて超えたのは2004年(平成16年)ですから、暗号通貨やトークンに関するブロードバンドにあたるものが到来するのは、まだまだ先になりそうです。

(出典:総務省「平成29年版 情報通信白書」より)

たとえば、イーサリアムにおいてはさまざまなスケーラビリティに対する解決策が提示されており日進月歩ですし、他の暗号通貨も同様です。ブロックサイズの引き上げだけではなく、メインとサブを分けてブロックチェーン同士を連携させる「サイドチェーン(Sidechains)」や、バッチ処理のように“ある一定量”のデータが更新されたタイミングでトランザクションを発生させる「オフチェーン(Off-chain)」など、試行錯誤のさなかです。(ややこしいですが、異なる暗号通貨間のブロックチェーンを連携させるのが「クロスチェーン(Cross-chain)」です)

こうした既存の暗号通貨のブロックチェーンの「上」で動く仕組みは「レイヤー2(Layer 2)」と呼ばれています。MITメディアラボのデジタル・カレンシー・イニシアティブ(Digital Currency Initiative)でディレクターを務めるネーハ・ナルラは、「レイヤー2」を「オフチェーンで計算が動くことで、プライバシーを有効にし、コンピューター資源(資源)を節約する」と述べています。いまもっとも注目を集める動きの1つです。

逆に言えば、トークンエコノミーにおける「ブロードバンド革命」は、まだまだ先なのかもしれません。

(3)ICOの2つの矛盾

スケーラビリティの問題をきっかけとして、ICOに決定的な矛盾が生まれているように思えます。すなわち(A)「使う vs. 保有する」の矛盾、(B)トークン価格上昇により競争力が弱まる矛盾、の2つです。

(3-A)「使う vs. 保有する」の矛盾

ICOプロジェクトにおいて、ユーザー数が増えればトランザクション数が増え、当然トークンをほしい人が増える。需要と供給の関係でいえば、トークンをほしい人が増えるから、トークンの価格が上がる、というのが普通です。

ところが、スケーラビリティの問題からユーティリティトークンが使われるサービスを開始するのは現状ではむずかしい。でも、トークンを購入した側からすれば、トークンの価格が上がってくれないと損してしまうので困ります。ICOを行うトークンの発行者側も、なるべく高い価格を維持してトークンを販売して資金を集めなければなりません。つまり、トークンの価格を高く維持できるに越したことはない。

では、どうすればトークンの価格は上がるか? 1つの方法は、すでにトークンを購入した人に対しては保有し続けてもらうことです。売りたい人が減り、買いたい人が増えれば、トークンの価格は上がる。ゆえに、本来は使われることで価値を高めていくべきユーティリティトークンに対して、いかにユーザーに使われないようにして保有を促すかが真剣に議論されるような状況になっているのです。

ユーティリティ(有用なこと)に使われるはずのトークンに対して、使われないように仕向けるインセンティブ(動機)が発生しているのは、実にフシギな状況です。

(3−B)トークン価格上昇で競争力が弱まる矛盾

スケーラビリティの問題は別にしても、そもそもユーティリティトークンにはICO時点で決定的な矛盾があるといわれています。

たとえば、Filecoin(FIL)でいえば、FILコインの価格が上がれば上がるほど、トークン購入者には利益がもたらされます。一方で、トークンの価格が高騰してしまうと、Filecoinにファイルを預けようとしていたユーザーは「価格が高すぎる」とサービスを使おうとしなくなるでしょう。

つまり、トークン価格の上昇はサービスが多くの人に使われるようになった、あるいはサービスの期待が高まっていることを意味する一方で、あまりに高騰してしまうとサービス自体の競争力が失われるのです。

その意味で、サービスを使ってほしいFilecoinのプロジェクト運営者と、トークンの価格だけが上がりさえすればいいトークン購入者とでは、相反する目的を共有していることになります。これが利益を分配できるので保有のインセンティブが明確なセキュリティトークンとは異なる、ユーティリティトークンならではのむずかしさです。

トークンこそ「インセンティブ」の最終手段である

こうした“そもそもの矛盾”を基に「ユーティリティトークンの価値をどのように維持するか」について、下記のようなさまざまな解決策が提示されています。箇条書きで挙げていきましょう。

・特典をつける

トークンを保有する、もしくは使用するなどの際に、何らかの特典を付与する方法で長期間の保有を促します。株式における株主優待をイメージするとわかりやすいでしょう。特典には、何らかのディスカウント、トークン保有者しかアクセスできないものを提示するなど、種々の方法が考案されています。

・投票権をもたせる

トークンに「特典をつける」ことに近い形ですが、トークンの保有枚数に応じて比例させる点、トークン経済圏の運営そのものに関わることがある点などから、特典とは別の項目とします。暗号通貨において保有量が多いほど取引の承認権を得やすい「PoS(Proof of Stake)」の形式に近いものです。

・バーン(焼却する)

「バーン(Burn)」は「焼却」を意味します。つまり、フィジカルにも存在する国家通貨とは異なり、トークンはデジタルな存在であるため、何らかのユーティリティに消費された際にバーンすることが可能です。バーンによりトークンの総量が減れば、価格が上昇する可能性が高まります。同じように、もしICOをしておらずトークンの総発行量に制限がなければ「ミント(Mint:鋳造)」することも可能です。

・買い戻す

株式における「買い戻し」「自社株買い」に近いかたちで、トークンの発行主がトークンを市場から買い戻すオペレーションです。

・ステーブルコイン(Stable Coin)

「ステーブル(Stable)」は「安定した」という意味です。つまり、暗号通貨やトークンがあまりにボラティリティ(Volatility:変動性)が高く、ユーティリティとして安定して使えないので、いっそ「1ドル=1トークン」などに固定したらどうか、という提案です。またトークンの価格維持とは直接に関係ありませんが、ステーブルコインの中でも、用途を極端に広げて決済に特化することを目的としたものを「ペイメントトークン(Payment Token)」と分類することがあります。その目的は既存の決済インフラをリプレイス(代替)し、コストの効率化を図ることです。決済の目的で、暗号通貨と別にステーブルコインが必要となる理由は、ボラティリティの問題に尽きます。貨幣の機能のうち「交換(Exchange)」においてはボラティリティがボトルネックとなるため、さまざまなステーブルコインが提案されています。

さて、これらの手法が提示される中で気づくのは、「トークンは人を動機づけるため(incentivize)に利用できる」ということです。6年以上前に書いた「楽天レシピはなぜクックパッドに勝てないのか?」という記事の中で、ゲームのノウハウをゲーム以外の活動へ転用する「ゲーミフィケーション(Gamification)」の知見を基に、下記のようなインセンティブ・デザインのフレームワークをつくったことがあります。(『ゲーミフィケーション』は編集者として初めて本を編集した思い出深い1冊です)

トークンがもたらす効果は、これらの手法と相似しています。ゴールドカードを持っていればVIPラウンジに入れるように、トークンの保有により何らかの「アクセス(Access)」を開放(アンロック)する。あるいは、投票権を持たせることは「パワー(Power)」の開放です。「ポイント(Points)」はそのままレベルデザインの考え方につながります。

メディアを介したユーザー行動の分析とデザインが私自身の専門領域ですが、その観点から考えるとトークンはインセンティブ・デザインに革命をもたらすと確信しています。

<独自性のある価値>を生み出せるか?

今まではスマホなどのディスプレイ・メディアでインタラクティブ性をどうデザインするか、またはポイントを付けてどのように誘引するか(トリガーをつくるのか)ということまでしか、施策をつくることができませんでした。しかし、ポイントではなくトークンを通じてインセンティブのデザインができれば、ユーザー間でどう価値を生み出すか、また価値あるものをどうトランザクションさせるのかまで、精緻に設計することが可能です。

あらためてゲーミフィケーションやインセンティブ・デザインのフレームワークから「トークンエコノミーの未来」をイメージするならば、その最終形は「いかにゼロイチで<独自性のある(Uniquely)価値>を生み出せるかどうか」にかかっています。裏を返せば、既存の貨幣で買える価値を交換するだけのトークンには、コストダウン・効率化以上の付加価値は見いだせないでしょう。

さすがに議論が抽象的すぎますので、たとえ話をしましょう。

日本にはコンテンツ投稿のプラットフォームに「note」がありますが、そこに掲載されるコンテンツは「noteでしか読めない」という<独自性のある価値>を持っています(少なくてもパブリッシュされた時点では)。コンテンツの中には、その価値に500円、1,000円と日本円で価格をつけているものも、たくさんあるでしょう。

ここで「noteトークン(仮)」を発行したと仮定します。投稿者は、たくさんの人によく読まれる(滞在時間が長い)、たくさん「いいね」をされるコンテンツほど、トークンをもらえます。そこで、一部のコンテンツを閲覧者がトークンを支払わないと読めないようにすると、どうなるでしょうか?

きっとnoteのコンテンツを見たい人が増えれば増えるほど、読者からのトークン需要が高まり、トークンの価値は上がります。トークンには「(3−B)トークン価格上昇で競争力が弱まる矛盾」がありましたが、そもそも「noteでしか読めない」という<独自性のある価値>があれば、別の通貨やトークンで代替することは不可能です。

もちろん、トークンのミント&バーン(鋳造と焼却)の仕組みや、総発行量を調整するメカニズム、アルゴリズムの設計という難題が依然として残っています。しかし、もしそれらの課題を乗り越えることができたならば、参加者同士の結束を強め、帰属意識を高めることに、トークンは大きな効果を発揮するはずです。

インセンティブ・デザインの観点から、より突っ込んで見通しを述べるなら、コンテンツをつくるクリエイターのみなさんがnoteトークンを保有するうちにnoteが大好きになり、他のクリエイターを応援するためにnoteトークンを使うようになったら大成功です。行動経済学でいえば「保有効果」ですが(『ファスト&スロー』参照)、いかに「外発的動機づけ」を「内発的動機づけ」に変えていくかが、トークンデザイナーの専門性を発揮する領域になってくるでしょう(また1つ新しい職業が誕生しますね)。

参考までに、インセンティブの観点から、現状のブロックチェーンやトークンを使ったユースケースの中で私が注目しているプロジェクトは、投稿でトークンの報酬が発生するメディア「Steemit(スティーミット)」の基盤となる「Steem」です。もちろん、そもそも上記のたとえ話とは仕組みがまったく違いますし、ICOをしておらず、トークンを分ける特殊な仕組みには議論の余地がありそうです。しかし、見方を変えて原理的な価値に着目すればおもしろいプロジェクトではないでしょうか。興味ある方はホワイトペーパーに目を通してみてください。

これから何が起こるのか?

ここまで、トークンエコノミーについて知っておくべきことを(1)まぎらわしいトークンの分類学、(2)致命的なスケーラビリティ問題、(3)ICOの2つの矛盾、という3つの観点から見てきました。最後に、トークンエコノミー、さらには暗号通貨・ブロックチェーンの今後について、自分なりの見通しを書いておこうと思います。

トークンエコノミー&ブロックチェーンの見通し

まず、トークンエコノミーについてはすでに説明した通り、①法的な問題、②スケーラビリティの問題の2つが大きな障害となっています。

①について、日本はCoincheck(コインチェック)Zaif(ザイフ)など、取引所で巨額の暗号通貨流出事件が起こったことから、物事が前に進んでいる気配がしません。現状、多くのICOプロジェクトが米国、スイス、シンガポールなど金融に理解がある国に集中しています。トークン発行のルールなど法的な問題は、これらの国々が先行して解決していきそうです。特に、今までは難しかった収益分配型のセキュリティトークンが可能となれば、日本以外でカジュアルな資金調達が一気に広がるかもしれません。

②について、本稿ではブロードバンドの比喩を用いましたが、正直なところ解決にどれぐらい時間がかかるのか、まったくわかりません。少なくても2、3年はかかるのでしょうか。サイドチェーンのプロジェクトが進んでいるさなかですので、その推移を見守るのみです。

広義には、管理者が存在せず世界中の不特定多数のノードが相互に承認し合うブロックチェーンの仕組みを「パブリックチェーン(Public Blockchains)と呼び、一つの組織内で管理されるブロックチェーンの仕組みを「プライベートチェーン(Private Blockchains)」と呼ぶことがあります。少々わかりにくいかもしれませんが、前者のパブリックチェーンがビットコインやイーサリアムなどの暗号通貨です。

後者のプライベートチェーンを使った領域では、今後BtoB市場が立ち上がり、市場の拡大が見込まれています。既存の仕組みをリプレイス(代替)しようとする新たな需要は、いつの時代でも尽きないものです。ソリューション領域ではIBMアクセンチュア、サービスとしてのブロックチェーン(BaaS:Blockchain as a Service)ではアマゾンマイクロソフトなど、さまざまなプレイヤーが虎視眈々とビジネスの拡大を狙っています。現在の各社の売り込みやカンファレンスの雰囲気を見るに、プライベートチェーンの市場が広がるのは時間の問題です。

注目すべき新領域「ブロックチェーン・ゲーム」

スケーラビリティの問題を別にして、ゲームだけは特殊な市場を生み出しており、ある意味で熱狂を生んでいます。たくさんのブロックチェーン・ゲームが生まれているようで、いろいろ調べていたらクリプトゲームのカンファレンスがベルラーシの首都ミンスクで開催されるようですね。

具体例をあげるならば、ブロックチェーンを活用した育成ゲームの先駆け「クリプトキティ(CryptoKitties)」です。同ゲームは代替不可能な性質を持つトークン(ノンファンジブル・トークン:Non-Fungible Token)の規格であるERC-721を採用することにより、単なるネコの画像が14万ドル(約1,500万円)で落札される、という衝撃的な事件が起きたことを記憶されていらっしゃる方も多いと思います。

ここで「ノンファンジブル・トークン(Non-Fungible Token)」について考えてみましょう。そもそも「ファンジブル(代替可能物)」とは何でしょうか。その代表はお金です。1,000円札は、別の1,000円札を持ってきても同じ価値を持っています。ゴールドも同じです。姿カタチが違っていても、100グラムならば100グラムの価値があります。しかし、ダイヤモンドは違います。宝石には様々な等級やグレード、サイズなどがあるため、同じ重さでも完全に同じ価値を有しているとはいえないからです。ダイヤモンドはノンファンジブルです。

ゆえに、ノンファンジブルは「唯一それしかない」という「希少性」を持ちます。つまり、本来は複製可能がゆえに潤沢でフリーに向かいやすいデジタルですが、ノンファンジブル・トークンがデジタルコンテンツに「希少性」を生み出したのです。その意味で、セキュリティトークンやユーティリティトークンとはまったく異なる市場をつくっています。

では、なぜノンファンジブル・トークンを使ったブロックチェーン・ゲームが流行るのか? 残念ながらポジティブな理由ではありません。やや専門用語になりますが「リアルマネートレーディング(RMT:Real Money Trading)」だからです。ゲームそのものが面白いというより、ゲーム内のキャラクターやアイテムを換金可能な暗号通貨で売買できるから(ときどき儲かるから)面白いのです。

日本でも過去に、RMTはギャンブル性が高すぎると問題になっています。いまブロックチェーン・ゲームが問題とされていないのは、まだプレイヤーが少ないからでしょう。海外では「イーサリアムのギャンブルによりトランザクション数が増え、手数料(ガス代)が高くなるのは問題だ」という意見もあります。

しかしながら、高い手数料を払ってもプレイしたいユーザーがたくさんいるという意味で、ブロックチェーン・ゲームは早い段階でさまざまなユースケースを生み出しています。ユーザーや技術の動向を見るためには、引き続き注目したい領域です。

取引所&マイナーの巨大マネーは何を生み出すか?

ブロックチェーン・ゲームと同じぐらい注目しているのは、取引所やマイナー(採掘者)が生み出す巨大マネーです。世界一の取引所であるBinance(バイナンス)の2018年利益は10億ドルになる見通しです。巨額流出によりマネックスグループ入りした仮想通貨交換業者のCoincheck(コインチェック)は、2018年3月期の売上626億円に対して営業利益は537億円、営業利益率は驚異の86%でした。

世界最大の仮想通貨マイニング企業であるBitmainが先日、香港証券取引所でIPOの申請を行いましたが、2018年利益は20億ドルに達すると推測されています。彼らはいったいどれだけ稼ぐつもりなのでしょうか。

うらやましがっても仕方ありません。私たちが考えるべきは、こうした仮想通貨取引所やマイナーが生み出す利益の向かう先はどこかです。彼らは稼ぎ出したマネーをそのまま溜め込まず、さらなるテクノロジーへの投資へ向けています。テクノロジーとしては未完成・未成熟の領域に、これだけの巨額が一気に流れ込むダイナミクスは、これまでに見たことがない光景です。なるべく前線に立ってリサーチ活動をしているつもりですが、そのスピードに「ついていくので精一杯」という感想です。

「これだけ業界にキャッシュがあるのだから、暗号通貨・ブロックチェーン業界に飛び込めば、何らかの仕事をして食べていけるはず」。それぐらいラフに考えて、暗号通貨・ブロックチェーン分野にどんどん才能ある人たちが集まってほしいと思います。

まとめ

これだけ長文になってしまうと、もはや「まとめ」は無理だと感じておりますが、言い忘れたことが1つありました。それは、今回のトークンエコノミーの考察においてカギとなったのが「インターネットとブロックチェーンの類似点あるいは相違点は何か?」の視点だった、ということです。

類似点における気づきは、以前の記事でも「インターチェーン」という概念で説明しましたが、ブロックチェーンが「人と人」「人とマシン」「マシンとマシン」の間をつなぐ価値交換の「ネットワーク」であるという点です。トークンエコノミーにおいては「このトークンは何と何の価値交換をつなげるのか?」という視点が欠かせません。ネットワーク構造から考える、という意味ではインターネットと同じだと思いました。

次に相違点です。インターネットは「時空間を超える技術だ」といわれることがありますが、少し違うのではないかと思いました。インターネットは「空間」を超える技術であり、実はブロックチェーンは「時間」を超える技術なのではないか? これが1つの仮説です。すでに解説したように、IPOやICOによる資金調達はプロジェクトが進化するスピードを上げる手段です。お金には「価値の貯蔵」という機能がありますが、そのストックを速やかに移転させることにより、ビジネスや社会が変わるスピードを劇的に速めることができるかもしれない。そんなことを感じました。

以前の記事で「“お金に色はない”というのは今まで貨幣を選ぶ選択肢がなかっただけで、トークンによりお金はもっとカラフルになる」と書いたことがあります。NewsPicksのピッカーのみなさんから、ひとことで「ロマンチシズムが過ぎる」とたくさんのお叱りを受けたことがあります。あのときに書ききれなかった「トークンエコノミーの未来」を多少論理的に説明してみましたが、いかがでしたでしょうか。

暗号通貨・ブロックチェーン領域へ潜る中で、いちばん判断に迷ったのは「ディセントラリゼーション(Decentralization:分散化)」というコンセプトをどう捉えるかです。何をもってディセントラリゼーションなのか? いくらスマートコントラクトが実装されようが、国家には政治家がいて議会や国会など立法機関があるように、トークンエコノミーにもコントラクトやインセンティブを設計する人がいます。ただコントラクトが施行すればいいわけではなく監視も必要ですし、予測されていなかった現実に合わせて、さらなるコントラクトやルール、設計の見直しが必要になるでしょう。これらは中央集権的ではないのか?

いちばん近い考え方としては地方分権です。「集権ではあるものの、中央ではない」という発想に共感します。具体的なイメージにたとえるなら、デジタルウォレットに国家通貨だけではなく何十種類もの暗号通貨やトークンが入っているような未来です。完全なる非中央集権は実現しなくても、ウォレット内ではいくつものレイヤーが折り重なった地方分権が実現します。定期的にバブルが生まれる現在の脆弱な経済システムだけではなく、価値そのものが暗号通貨やトークンで分散的に存在し、分散的に価値交換が行われるような未来が望ましいのではないでしょうか。反論もあるでしょうが、あなたと私はきっと価値観が違うだけです。

最後に。本稿はなるべく専門用語は避けましたが、それでもわかりにくいことが多かったかもしれません。100人ぐらいの方々へ向けて書いているような気分でした。暗号通貨とブロックチェーン、そしてトークンエコノミーは、それだけ専門性が高く、抽象的でわかりにくい分野だと感じます。

専門メディアはいくつもありますが、一般人との間を埋める解説が少なく、暗号通貨・ブロックチェーン分野のリテラシーに差が生まれてしまっているように感じます。メディアに携わる人間として、編集者として、きちんとこの課題に向き合っていきたいと思いました。

LINEのトークンエコノミーについて語ったVoicyでも同じことを伝えましたが、今はとにかく仲間がほしい気持ちです。もし、暗号通貨やブロックチェーンの領域に関心の高いメディア所属の方、編集者がいらっしゃれば、ぜひツイッターなどでお声がけください。また、トークンエコノミーに関するイベントなども企画したいと考えてます。引き続きKOMUGIをフォローください。

では、また次回。

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