すべては「スーパーアプリ」になる

経済の先行き不透明だからこそ、インプットが大事です。ずっと気になっていた中国テック企業を調べてました。注目したのは、世界に名高いベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)ゼネラルパートナーであるコニー・チャン氏のプレゼン動画。

中国テックに精通し、消費者向け技術のスペシャリストである彼女は、16分間のスピーチで「すべてはスーパーアプリになる」「すべてはコマースになる」「テックはフィジカルに向かう」「耳の可処分時間は新たなマインドシェアだ」という4つの最新トレンドを示しました。

特に衝撃を受けたのが1つ目の「すべてはスーパーアプリになる(Everything becomes a super app)」です。きっとビッグ3、いつもの「BAT(Baidu、Alibaba、Tencent)」の話だろうと聞いていたら、意外にもレストランの料理などを配達するフードデリバリーサービスを展開する「美団点評(Meituan Dianping)」の事例でした。

調べてみると、すごく面白い。実は、時価総額で中国の検索エンジン最大手であるバイドゥを抜き去り、アリババとテンセントに次ぐNo.3の位置を占めているというのです。市場からの高い評価の要因は美団点評(メイトゥアンディエンピン)がスーパーアプリだからです。

ヤフーとLINEの経営統合発表で、日本でも一気に「スーパーアプリ」という言葉が浸透しました。一方で「中国と日本では競争環境が違う」「金融やタクシーの規制が厳しいから日本ではムリ」などスーパーアプリに否定的な論調が多いように思います。本当にそうでしょうか?

コニー・チャン氏は「(スーパーアプリの)このトレンドは東から西へ向かっている(This trend is coming from East to West.)」と力強く語っています。今回は、美団点評の戦略を読み解き、スーパーアプリというグローバルトレンドが指し示す、今後のビジネスモデルの変化を考えます。

わずか6年でホテル予約No.1へ

コニー・チャン氏が注目したのは、美団点評がフードデリバリーのNo.1サービスでありながら、後発で中国内シェア50.6%を超えるオンライン旅行サービスに変貌を遂げたという点です。

中国No.1だった「Ctrip(携程)」を提供するトリップドットコム・グループの創業は1999年。2003年にNASDAQに上場しました。日本で「楽天トラベルやじゃらんnetに勝て」と言われても難しいでしょう。しかし美団点評がホテルの予約サービスに参入したのは、Ctrip誕生から14年後の2013年。誕生からわずか6年での大逆転劇です。

フードデリバリーNo.1サービスであることから、美団点評はO2O(Offline to Online)もしくはOMO(Offline merges Online)の成功例であるという側面が強調されがちですが、彼らの重要な戦略は年次報告に書かれている次の一文に尽きます。

私たちは高頻度のフードサービスを通じて獲得したユーザーを、様々な低頻度のサービスへクロスセルさせることに成功し、プラットフォームの実力を証明しました。

美団点評は「Food +Platform」を掲げており、1日あたり平均3,000万回、1人あたり年平均の利用回数26.5回の注文があるフードデリバリーの巨大なフリークエンシー(頻度)を起点にして、たまに利用するオンライン旅行サービスのような低頻度のサービスを購入してもらう戦略なのです。

実際に、オンライン旅行サービスで全体の22.5%を売り上げ、粗利益率はダントツの88.6%です。

まさに美団点評の歩んできた軌跡は、フリークエンシーを獲得してスーパーアプリへと変貌を遂げた歴史そのものです。まずは彼らがどのように成長してきたのかを振り返りましょう。

「スーパーアプリ=決済」ではない

前身の「美団」は共同購入サービスのグルーポンを模倣した(パクリ)サービスとして2010年に設立。CEOの王興(Wang Xing)は中国版フェイスブック「人人網(Renren)」の創業者としても知られ、中国テックのコピー文化を体現する人物です。

2012年に映画チケットのオンライン予約、2013年にフードデリバリーとオンライン旅行のサービスを開始。2015年に中国最大の口コミ投稿サービス「大衆点評(Dianping)」と合併して新会社「美団点評」を設立しました。

大衆点評は「食べログ」のようなレストラン情報だけではなく、ショッピング、映画、ホテル、カラオケ、マッサージ、美容室、スポーツフィットネス、クリニック、ペット…など地域店舗の口コミを網羅した情報サイトです。登録ユーザー数は6億人を超え、店舗の予約、デリバリーの注文、共同購入、割引クーポンなど、街に出るときには欠かせないサービスです。

美団点評は2018年の1月から4月にかけて6億ドルものバラマキでシェアを拡大すると、同4月にはユーザー数4,819万人、1日あたりの810万回利用されるシェアサイクル「モバイク(Mobike)」買収してユーザーとフリークエンシーを獲得。同年9月、香港証券取引所に上場しました。

中国のスマホ決済ではアントフィナンシャル「アリペイ」とテンセント「ウィーチャットペイ」で約94%という圧倒的なシェアを握っていますが、美団点評は決済を目的としたアプリではありません。

国内の調査によれば利用率が最も高いカテゴリーは80%を超えるファイナンスであり、たしかに決済アプリは財布のように高頻度で使うサービスです。しかし美団点評の例のように、必ずしも「スーパーアプリ=決済」ではないのです。

人間にとって「食べる」ことは日常生活で頻度の高い行動です。つまりスーパーアプリとは日常生活で使う頻度の高いサービスを中心に、様々なサービスをワンストップで提供するアプリなのです。

重要なので繰り返しますが、フードデリバリーという頻度の高いサービスを起点にして、ホテルの予約などの頻度の低いサービスを購入してもらうのが美団点評の戦略です。

米国が中国テックを「逆輸入」

世界の時価総額ランキングにおいて、アリババが第6位、テンセントが第9位となった今、米国は中国テックから学ぼうという空気が醸成されてきました。Facebookのマーク・ザッカーバーグは、2019年3月に書いたnoteで次のように書いています。

私たちはWhatsAppを開発したように、最も基本的でプライベートなユースケースであるメッセージングに焦点を当て、それを可能な限り安全にし、それに加えて、通話、ビデオチャット、グループ、ストーリー、ビジネス、決済、コマース、そして最終的には他の多くの種類のプライベートサービスのためのプラットフォームを含む、人々が交流するためのより多くの方法を構築することを計画しています。

ザッカーバーグの発言に対して、ウォール・ストリート・ジャーナルは「Facebookは中国のスーパーアプリWeChat(微信)に注目しているのではないか」と書きました。またForbesは、それ以前にもFacebookはTikTokを真似たアプリ「Lasso」を米国向けにリリースしており、「(WeChatの模倣は)米国企業による中国のイノベーションのコピーの新たな一例」に過ぎないと揶揄しました。

他にも配車サービス大手のウーバー(Uber)のCEOは、アプリ内に電車やバスなど公共交通機関での移動をカバーすることによりユーザーの利用頻度を高める施策を行い、さらに配車とフードデリバリーを統合して「あなたの生活のOSになる」と宣言しています。

ウーバーがさらに利用頻度を高める金融サービスへの参入を発表したのも記憶に新しいところです。はっきりとは言及していませんが、スーパーアプリを意識しているのは明らかでしょう。

決済手数料で稼ぐモデルはなくなる

日本はどうでしょうか。いちばん戦略が見えるのはPayPayです。ソフトバンクの決算資料から読み取ると、決済アプリで100億円還元などのバラマキでユーザーと加盟店を増やしつつ、日常生活で使う頻度の高いサービスを手中に収めてスーパーアプリ化しようという意図が明確です。

これはアリババの主要株主であるソフトバンクがPayPayに出資しており、技術提携元であるインドの「Paytm(ペイティーエム)」がアリババグループの金融サービス会社であるアントフィナンシャルから出資を受ける会社であることからもわかるとおり、スーパーアプリ化への定石を知っているのだと思います。

LINE Pay、楽天ペイ、d払い、メルペイ、au PAY、ファミペイ……全部がスーパーアプリになる気がまったくしません。「LINE Mini app」「d払いミニアプリ」を構想・展開するLINEやドコモはいいとしても、メルカリはライバルであるはずのドコモと提携しました。au PAYはなぜか金融に特化するスーパーアプリ(?)と宣言しています。ほとんどの参入企業がトレンドに乗り遅れないために決済アプリをつくっただけで、戦略なきバラマキか、単なる顧客の囲い込みとしか感じられません。

国内ではスーパーアプリへの理解がないためか「本当に店舗から手数料とれるの?」と言われがちですが、ネット証券会社の手数料無料化が始まる時代に決済手数料がビジネスの中心になるわけがないでしょう。日常生活で使う(決済アプリなどの)頻度の高いサービスを提供することによって、様々な(たとえば旅行サービスなど低頻度の)商品やサービスを購入してもらうのがスーパーアプリの本質です。

今後もブロックチェーンなど新たな金融テクノロジーにより、マッチングの付加価値がない単なる仲介による「手数料」は限りなくゼロに近づくのではないかと予想しています。

QRコード決済はなぜ普及したのか?

さて、あらためてスーパーアプリ化のトレンドがなぜ必然なのかを考えていきたいのですが、その前になぜ日本のQRコード決済の普及が必然だったのかについて補足したいと思います。いまだに「非接触のほうが技術が優れているし便利」「バラマキが終わればQRコード決済は終わる」と消費者目線で語ってしまうビジネスパーソンがあまりに多いことに違和感を覚えるからです。

そもそも中国でアリペイが圧倒的に強かった理由は、事業者から見て①「店内にQRコードを貼るだけ」とハードウェアがなく導入コストがない、②入金タイムラグがないので運転資金に困らない、③手数料も0.1%と安い、の3点のメリットがあったから。つまり、消費者ではなく事業者側の課題を解決したのです。細かい経緯は『アントフィナンシャル』を読んでください。詳しく書いてあります。

PayPayの加盟店数は194万カ所と他を圧倒するレベルとなりましたが、加盟店の募集サイトを見れば忠実にアリペイの戦略を踏襲していることがよくわかります。「QRコードを置くだけ」で「0円から始められる」し「最短即日入金」です。決済システム利用料は、2021年9月30日まで無料としています。

おそらくPayPayは決済手数料だけで稼ぐつもりはなく、これからスーパーアプリ化により多角化をはかり長期的に収益につなげていくのだろうと思います。

「スーパーアプリは必然」3つの理由

スーパーアプリもQRコードと同じで「中国で流行ったからといって日本では無理」と思考停止してはいけません。中国だけではなくシンガポールのグラブ(Grab)やインドネシアのゴジェック(GO-JEK)もあります。なぜスーパーアプリが世界を席巻し始めているでしょうか? ここから書くのはコムギの仮説です。

第一に、アプリはそもそもダウンロードするのが手間です。「ホテル予約したいな」と思ったときに、わざわざ楽天トラベルやじゃらんのアプリをインストールしますか? きっとブラウザから検索する人も多いはず。それならば、いつものスーパーアプリのミニプログラム(ミニアプリ)でストレスなく、そのまま予約できた方が便利でスムーズです。数ヶ月に1回も使わないアプリをインストールしておくほどユーザーは気長ではありません。

第二に、スマホのアプリUXが古すぎると思います。飲食店の割引クーポンのためにアプリを数十もダウンロードしておき、フォルダ分けして整理して、行く前にはアプリを探して……なんて面倒くさいんだ! スーパーアプリなら今いる場所の地図から瞬時に飲食店のミニプログラムを呼び出せて、レビューも見れるしクーポンも決済もワンストップ。アプリが整然と並ぶスマホのインターフェイスより、利用シーンや履歴に応じてパーソナライズしてくれた方が圧倒的にラクです。5Gで通信速度が上がるなら、ミニプログラムをリッチコンテンツにすることができるのでなおさら便利です。

第三に、アプリとウェブ(ブラウザ)の行き来が面倒くさいです。たとえば、飲食店なら大手チェーン店以外はアプリをつくる資金力はないでしょう。ミニプログラムならば基本はウェブと同じような技術なのでアプリほどお金がなくてもつくれます。なので結果的にスーパーアプリ内の飲食店ミニプログラムの選択肢は豊富になります。つまりアプリとウェブの中間にあるのがミニプログラムなのだと思います。

「スーパーアプリはごちゃごちゃし過ぎて使い勝手が悪い」「アプリを分けた方がいいのに」というデザイナーの意見をたまに見ますが、まさに木を見て森を見ずです。ユーザーからすればスマホの画面にそもそもアプリが多すぎるし、ダウンロードも面倒くさいし、ウェブサイトしかない飲食店はブラウザから検索して、食べログやウェブサイトを見ないといけないし……要するにアプリのUI(見た目)の問題ではなく、スマホ自体のUX(体験)が根本的な問題なのです。

自前のクラウドインフラがないなど国内特有の課題もありますが、今のところスーパーアプリの登場は必然の流れだと考えています。

「AI×データ」3つのヒント

最後に、美団点評の考察から学んだことを3つにまとめたいと思います。

ポイント①:スーパーアプリを目指すべき

声を大にして言いたいのは、今がスーパーアプリになれるラストチャンスだということです。Zホールディングス(旧ヤフー)とLINEが国内No.1スーパーアプリになる可能性が最も高いと思いますが、競争は始まってばかりです。

美団点評のように「食べる」にフォーカスしたクックパッドと食べログが合併することはないのでしょうか。そもそもユーザーが投稿した情報にもかかわらず、そのアクセスの利便性に課金するビジネスでは、ユーザー側に何らメリットがありません。さらにUber Eatsに対抗する出前館との合併でスーパーアプリになれないのでしょうか。

あるいはカレンダー共有アプリ「TimeTree(タイムツリー)」のようにフリークエンシーが高いツール系アプリを起点にできないでしょうか。ニュースアプリ「SmartNews(スマートニュース)」はニュースではないクーポンを配信してユーザーを獲得していますし、もっと大胆に業種やジャンルの壁をぶち壊すことができるはずです。

ECだって単独でやるよりコンテンツプロバイダーと組んだ方が、フリークエンシーをコンバージョンに変えることができます。もはやアプリは目的・用途ごとに分かれている必要はありません。今までの常識を捨てましょう。

中国ではスーパーアプリの登場により、検索トラフィックを失ったバイドゥの企業価値が徐々に失われています。アプリとウェブの中間にあるミニプログラムは、Googleが独占するウェブ検索エコノミーを崩す唯一の方法かもしれません。検索に替わる新たなプラットフォーマーがスーパーアプリです。頻度の高いアプリやサービスを集めてスーパーアプリになる国内のプレイヤーが登場して、対GAFAの対抗軸ができたら、もっとビジネスは活性化します。

ポイント②:サービス価値を上げる

インターネットのマッチングビジネスの基本は、最適なマッチングにより取引(トランザクション)の手数料をとることでした。しかし、中国テックのスーパーアプリを調べるほど単なるマッチングだけのビジネスに未来はないと感じます。

美団点評が後発ながらオンライン旅行サービスでNo.1になった事例を紹介しましたが、先ほどの話はあくまで消費者側の話です。事業者(ホテル)側の視点で見ると、まったく別の話があります。

美団点評が提供する宿泊予約システムには、売り上げ、価格、ユーザーの満足度、苦情率、注文処理率、アクティブ率、写真数などから算出されるHOSスコアと呼ばれる評価アルゴリズムがあります。HOSスコアが高いホテルは、検索結果の上位にランクされる可能性が高くなる仕組みです(画像は引用)。

とても斬新な仕組みだと感じました。プラットフォーマー(美団点評)が「検索順位」というアルゴリズム(権力)を利用して、プロバイダー(宿泊施設)にコンテンツ(サービス価値)の改善を促す。Googleがウェブサイトの質の向上や改善を促す方法とまったく同じです。

当然、開始当初はホテル側の反発もあったものの、HOSスコアが高いことが利用者の満足につながり、結果的に売り上げにつながったため、それ以降はHOSスコアの公平性に疑問を持つ声はほとんどあがっていないそうです。裏を返せば、美団点評がプラットフォーム上でデータを適切に取り、きちんと事業者側にフィードバックできているということです。

ヤフーCSOの安宅和人さんは『シン・ニホン』でデータ×AIの基本ループを次のように整理しています。

このようにデータを用いてユーザーへのサービス価値を上げることは、データを大量に独占するスーパーアプリのようなプラットフォーマーにとっての責務だと思います。ポイント付与によるユーザー囲い込みだけでプラットフォーマーがデータを活用せず、マッチングだけに甘んじて何もせずに手数料を上げ、事業者から広告などのマーケティング費用を搾取するだけのビジネスは、もう終わりにしましょう。

ポイント③:データエコノミーの幕開け

スーパーアプリの登場は、データエコノミーの幕開けです。これまでインターネットのビジネスは、様々な産業やビジネスの構造をレイヤーアンバンドル(レイヤーごとに細分化)する方向で進んできました。一方で、スーパーアプリは様々な業種やサービスの壁を超えて再び束に(バンドル)する動きです。なぜ再びバンドルが始まったのか?

再び『シン・ニホン』からの引用ですが、デバイス・領域を超えて大量のデータを持つことこそがAI×データ戦争における成功要件の1つです。つまり、大量のデータを持つことが勝つための条件となるデータエコノミーにおいて、スーパーアプリは最適な経営戦略だとも捉えることができるのです。

インターネットの世界は、ポータルサイト(バンドル)のYahoo!から、検索エンジン(アンバンドル)のGoogleへと移り変わり、再びスーパーアプリ(バンドル)の時代がやってきたというわけです。国内で有望なスーパーアプリがPayPay(Yahoo!)だというのも、もしかしたら歴史の必然なのかもしれませんね。

あとがき

コムギとしては、1年半ぶりの長文の考察となりました。いかがでしたでしょうか? いろいろと意見や感想がありそうな内容だと思いますので、ぜひコメントをお待ちしてます。ひさびさにオンラインでの相談も再開しました。たまに記事を書きますので、ぜひTwitterをフォローください。

では、また次回。