夜の歌舞伎町に外国人が殺到する理由

日本で暮らすなら、これだけは覚えておこう。

歌舞伎は歌舞伎町ではやっていない。

コリン・ジョイス『「ニッポン社会」入門』

夜の街、歌舞伎町にいま外国人が殺到しています。

東京都では毎年、羽田空港や成田空港の「国際線ターミナル搭乗待合ロビー」で外国人観光客にアンケートをとり、どのような東京を訪れてどのような行動をとったかをまとめた「国別外国人旅行者行動特性調査」を発表しています。

平成28年度(2016年)の調査では、外国人旅行客の訪問先ランキングは次のようになっています。

外国人の都内訪問先、第1位は「新宿・大久保」の56.9%、第2位は「浅草」の48.2%、第3位は「銀座」の48.1%です。

浅草寺や雷門、人力車、かっぱ橋道具街、さらにはスカイツリーまで、「浅草」といえば誰もが認める東京を代表する観光地です。その「浅草」を抑えて、ダントツ1位なのが「新宿・大久保」です。そして、新宿と大久保をつなぐエリアこそが「歌舞伎町」です。外国人はなぜ歌舞伎町に集まるのでしょうか?

同じアンケートでは、訪れた街でとった行動を調べています。

それぞれの街で「行った活動」の割合が出ているわけですが、正直なところ、なぜ「新宿・大久保」を訪れる外国人旅行客が多く、満足度が高いのか、まったく見えてきません。

しかし。新たな「組み合わせ」を考えるために、「モノ」や「コト」を集めるのが編集者です(「編集者とは?」)。いろいろと調べたところ、ある事実に突き当たりました。

約3人に1人が新宿に宿泊する

世界最大の総合オンライン旅行会社エクスペディアが発表した資料によると、東京への外国人旅行客のうち約3人に1人が新宿に宿泊している、というのです。

「新宿が選ばれる理由としては、高級ホテルからお手頃なビジネスホテル、カプセルホテルなど、多様な宿泊施設が揃っていることがあげられます。また都内各所だけではなく、人気スポットである富士山へもバスでアクセスしやすいため、人気となっています。」

「エクスペディア」2016/01/18プレスリリース

エクスペディアでは、新宿に宿泊する外国人旅行客が多い理由を、上記のように解説していました。

たしかに、新宿・歌舞伎町はホテル開業ラッシュが続いています。新宿エリアで5棟1,447室のホテルを運営する「アパホテル」をはじめ、2013年12月18日に開業した380室の「新宿グランベルホテル」、旧コマ劇場跡地の新宿東宝ビルに2015年4月24日に開業した970室の大規模ホテル「ホテルグレイスリー新宿」、チェーンの「スーパーホテル」「東横イン」など、歌舞伎町の周辺では宿泊施設の大量供給が続いています。

「なるほど」と思う反面、それだけが理由だとは思えません。富士山へのバスは、新宿だけではなく渋谷、池袋などからも出ています。アクセスでいえば新幹線の発着駅である東京駅、さらに羽田空港にも近い品川駅のほうが利便性は高いはずです。

つまり「利便性の高さ」は理由にはなりません。なぜ外国人旅行客は、浅草や銀座ではなく、新宿を宿泊先に選ぶのでしょうか? ここで視点を変える必要がありました。

夜の街が人を惹きつける

外国人旅行客が東京にいる時間は、それほど長くありません。前述の東京都「平成28年度 国別外国人旅行者行動特性調査」によれば、外国人旅行客の宿泊数は「4~6泊」が 36.0%と最も高く、次いで「2泊」18.0%、「3泊」 17.2%でした。全体の約8割が1週間を待たずして東京を去ります。

短い滞在時間のなかで大切なのは、「1日24時間を有効活用できる」こと。つまり、朝、昼、夜と「遊びつくせる」ことが外国人旅行客に選ばれる条件になります。

歌舞伎町といえば、夜の街。あの怪しげなネオンにより、煌々と輝く街だからこそ、外国人旅行客の宿泊先に選ばれるのです。

新宿駅から歌舞伎町への玄関口にあるのがディスカウントストア「ドン・キホーテ新宿歌舞伎町店」です。売上高はトップクラス。靖国通り沿いにあり、店の存在を知っている人も多いでしょう。しかし、実は「ドン・キホーテ」のなかでもトップクラスの売上といわれる店舗がもう1店舗あります。大久保と歌舞伎町の間にある「ドン・キホーテ新宿店」です。この2店舗は共に24時間営業、免税サービスが充実しており、新宿に宿泊する外国人旅行客にとって格好のショッピングスポットになっています。

もちろん、深夜に開いている飲食店も充実しています。チェーン店だけではなく、「新宿ゴールデン街」には、サッカー場ほどのエリアに2~3階建ての木造の長屋がひしめき合い、約280軒もの店が深夜でも営業しています。大久保エリアも韓国料理をはじめ、エスニック料理のレストランが充実しています。もちろん、歌舞伎町の奥に入ればキャバクラやホストなどお酒を飲む夜のお店がたくさんあります。

買い物や飲食店ではありません。最近になり、歌舞伎町を中心にして、新たなエンターテイメント施設が次々と生まれています。

ロボット、サムライ、ドラゴンボール…!?

歌舞伎町エンタメの代表ともいえるのが、90分間の派手なショーを楽しむ「ロボットレストラン」です。来場客の90%以上が外国人旅行客が占める人気エンターテイメントです。私も一度だけ見たことがありますが、ロボットだけではなく、ダンス、カンフー、オートバイ、神輿に和太鼓、なんでもアリのエンターテイメントショーでした。

ショーはほぼ毎日開催されており、最終公演は21:45からと遅めのスタートでも楽しむことができます。「ロボットレストラン」は世界最大の旅行者の口コミサイト「トリップアドバイザー」でも4,200件以上(2017/10/7現在)のレビューが付いており、これは新大久保コリアンタウンの約800件、新宿ゴールデン街の約1,400件をはるかに超えるものです。

鎌倉時代から江戸時代のサムライ文化を紹介する博物館「サムライミュージアム」は、英語が堪能なスタッフが丁寧に解説してくれることで外国人旅行客に大人気です。戦国武将やお姫さまの格好を記念撮影のできるコーナーや殺陣のショーなどもあり、訪れた旅行客が楽しめる場所となっています。17時、18時で閉まる博物館や美術館が多いなか、こちらは21時まで開いています(20時半最終入場)。

歌舞伎町のど真ん中に位置する新宿東宝ビルの上には、「ゴジラヘッド」と呼ばれるゴジラの巨大なオブジェがあります。この歌舞伎町のゴジラは12時から20時の間に毎日9回、1時間おきに吠える仕組みで、見るものを驚かせます。もちろん見るだけはタダです。

2017年7月14日には、国内最大級のVRエンターテインメント施設「VR ZONE SHINJUKU」がオープンしました。ゴーグルをかぶり、さまざまなVR体験を楽しむことができます。たとえばドラゴンボールのかめはめ波を出す、マリオカートやエヴァンゲリオン、ガンダムに乗るなど、日本のアニメやゲームが好きな外国人旅行客の心をわしづかみにするアトラクションが勢揃いしています。こちらは夜の22時までオープンしています(21時最終入場)。

そして謎解きイベント「リアル脱出ゲーム」で人気のSCRAP(スクラップ)も2017年12月19日に、新宿・歌舞伎町に”謎”をテーマとしたテーマパーク『東京ミステリーサーカス』をオープンすることをアナウンスしています。外国人旅行客に対応するかは不明ですが、おそらく世界での展開を見すえた動きだろうと思います(リアル脱出ゲームが大好きなので、そう感じています笑)。

以上のように、歌舞伎町には、買い物や飲食店以外にも、外国人旅行客が夜遅くまで楽しめるエンターテイメント施設が続々と集まってきています。外国人旅行客が歌舞伎町に殺到する理由は、”夜”のアクティビティにあったのです。今後もますます新宿に宿泊する旅行客が増えそうです。

滞在時間が長くなれば、おカネも遣う

こうした旅行客の”夜”という時間帯のアクティビティに注目した考え方は、「ナイトタイムエコノミー(夜遊びに伴う経済活動)」として、脚光を浴びるようになってきました。

楽天の三木谷浩史さんが代表理事を務める「新経済連盟」が2017年2月に発表した観光政策の提言に「ナイトタイムエコノミーの振興」が挙げられ、2017年4月には「時間市場創出推進(ナイトタイムエコノミー)議員連盟」が設立されました。

要するに、日帰りよりも1泊2日、2泊3日と、滞在時間が増えれば増えるほど、おカネを遣うはずだ、という発想です。「そうか!」と思いました。本の編集を仕事にしている私が、すぐに思いついたのは「蔦屋書店」です。

「蔦屋書店」に「スターバックス」が併設されたBook & Cafeは、全国に45店舗あります。「本を読みながら、ゆっくりコーヒータイムをお楽しみいただけます。」とあるように、購入前の書籍や雑誌を持ち込み、自由に読むことができるカフェ兼書店です。

「滞在時間が増えれば増えるほど、おカネを遣うはずだ」という発想は、ナイトタイムエコノミーも蔦屋書店もきっと同じでしょう。「無料で本が座って読めるなんてけしからん!」と怒る出版社の方々の気持ちはよくわかりますが、経済活動としては正しい発想です。

では、スターバックスが併設された蔦屋書店をもっと増やせば、本を買ってくれる人が増えるのでしょうか? そう簡単な話でもなさそうです。

どのように「時間消費」をおカネに交換するか?

本が無料で読める「カフェが併設された書店」という考え方は、それほど新しい組み合わせではありません。

たとえば、コンビニでは店舗のソトからいちばん見える位置に、雑誌やコミックを陳列する棚が必ずあります。今でこそヒモで雑誌がしばられ読めないようになっていることがありますが、客がコンビニで立ち読みするのは普通のコトでした。ふらっと立ち読みに来た客に、本だけではなく食品や日用品を買ってもらうのがコンビニです。

ブックオフなどの中古書店では、マンガも立ち読みできるようになっており、それを目当てにして来た客に本を買ってもらいます。ネットカフェでは、くつろいでマンガや雑誌を読む場所の、滞在時間そのものを買うサービスです。

つまり、蔦屋書店に併設されたスターバックスで、座ってコーヒーを飲みながら本を読み、飲食を消費し、本や雑貨を買う。そのこと自体は特別なことではありません。整理すると次の図のようになります。

本のつくり手の立場から見れば、蔦屋書店の課題は、本を買ってもらうだけでなく、飲食をしてもらったり雑貨を買ってもらうことで、蔦屋書店は利益を得られる仕組みになっている点にあるのだと思います。「時間消費」という価値を生み出した出版社が、利益配分においてアンフェアになっているのです。これはブックオフやネットカフェも同じです。

「蔦屋書店やブックオフ、ネットカフェはけしからん!」と言いたいわけではありません。出版社が本をつくり、書店を通じてモノとしての本を売ることだけに執着しているのが、そもそも問題ではないかと思うのです。出版社は書籍や雑誌・マンガをつくることで、せっかく「時間消費」という価値を生み出しているのに、その価値をおカネに交換する方法を、いまだに生み出していないのです。

新たな換金方法を生み出したCCCのスゴさ

「スゴい!」と感じたのは、蔦屋書店を運営するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)の次の展開です。みなさんは「T-SITE」をご存じでしょうか? 代官山をはじめ、湘南、柏の葉、枚方、広島の全国5か所にあります。

(出典:T-SITE LIFESTYLE「店舗一覧 」

「T-SITE」は、蔦屋書店を中心としてミニ・ショッピングモールのような施設です。レストランやカフェなどの飲食店、食品から日用品、コスメまで扱う雑貨店、ファッションなどブランド店までが集まっています。つまり、「T-SITE」のビジネスを整理すると、次のようになります。

もともとは、蔦屋書店とスターバックスが生み出した「座って本を読む」という時間消費の価値を広げて、さらに「T-SITE」というミニ・ショッピングモールに展開させることで、「入居するテナントからの家賃収入」というBtoBのビジネスへと進化させたのです。

出版社が書籍や雑誌・マンガから生み出した「時間消費」という価値は、つくり手にまったく還元されていないのです。これはCCCが悪者だというわけではまったくなく、むしろ出版社がビジネスの新たな組み合わせを生み出せていないのが悪いのです。

おわりに

ここまで、歌舞伎町と外国人旅行客の話から、ナイトタイムエコノミーという時間消費の切り口やヒントを得て、蔦屋書店やT-SITEの話まで、「調べた」ことを一気に展開しました。こうやって、いろいろとつなげて「考える」のが、本来の編集者にとっての仕事ですね。

不動産ビジネスまわりでは、「イオンvsららぽーと」や、「マイホームを持つ是非」など、書きたいテーマがたくさんあります。編集という仕事の合間の時間がゆるすかぎり、引き続きKOMUGIで記事を書いていきます。

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