欅坂46で学ぶアイドルビジネス

2017年8月下旬。夏休みをとって、家でゆっくりしていたときの話です。

あたまの中を空っぽにしようと、何も考えずにYouTubeを見ていました。「最近はどんな曲が流行っているのかな」と関連動画に出てくるミュージックビデオ(MV)を次々と見ていたとき、一つの動画に目を止めました。

「あー、欅坂46といえば、乃木坂46の次に、秋元康がプロデュースしたアイドルだったっけな」最初の印象はそれぐらいです。

関連動画に、次々と欅坂46の動画が並んだので、何気なく、ダラダラと続けて見ていました。「けっこう、いい曲だな。歌詞も『君は君らしく生きて行く自由があるんだ』ってアイドルが言うなんて、おもしろい」そんなことを思いながら、「けっこう好きかも」と徐々に好意を感じるようになりました。

まずはYouTubeをキャッシュできる(オフラインで再生できる)アプリで欅坂46のMVを読み込み、「サイレントマジョリティー」以外にも、「不協和音」「世界には愛しかない」「二人セゾン」など、いろんな曲を聴くようになりました。無料で楽しめるなんて、いい時代です。寝る前などヒマなときは、動画に見入ってたりしました。

無法状態でアップロードされるテレビ番組

あるとき、YouTubeで「欅坂46」を検索したときに、「ん?」となりました。

「欅坂46」という言葉の下に、「欅坂って書けない」というキーワードが検索候補として並んでいたのです。「シングルのタイトルや、ライブというキーワードより先にきてるけど、コレなんだろう」と思い、検索してみました。

すると、「欅って書けない」という動画がズラッと並びました。「あー、これは欅坂46が出ているテレビ番組か」と気づきました。「へー」と思いながら、これもまたダラダラと見始めました。

ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、「欅って、書けない?(通称:けやかけ)」は、テレビ東京で日曜の深夜に放送されている、欅坂46が主役のバラエティ番組です。芸人の土田晃之さん、澤部佑(ハライチ)さんがMCとなり、毎回さまざまなバラエティのネタに挑戦しています。

けっこう無法状態でアップロードされており、番組一本がほぼまるまる見られます。試しに「けやかけ」をいろいろと見ていたら、「長濱ねる初登場!」という動画に出会いました。これが転機でした。

メンバーのキャラクターを理解

YouTubeで「けやかけ」の動画を見て、初めて欅坂46のメンバーの一人である長濱ねるさんが、初期メンバーではなく途中から加入したメンバーだと知りました。欅坂46の周辺情報をコンパクトにまとめている「エケペディア」では、次のように説明されています。(長い引用なので興味のない方は読み飛ばしてください)

オーディション受験と加入までの経緯については、2015年11月30日(29日深夜)に放送された「欅って、書けない?」において明らかにされている。

欅坂46の1期生オーディションを受験し、長濱は1次審査・2次審査を順調に突破。両親は「受かるはずがない」と軽く考えていた。「自分にチャンスがあるなら、絶対にアイドルになりたい」という決意を胸に3次審査、最終オーディションのために東京へ向かう。

長崎から上京する際、母親は長濱に「最終的には3次審査に落ちても受かってもその日の飛行機で帰って来なさい。もし受かっても辞退して帰って来なさい」と約束。しかし3次審査に合格すると「ここまで来て辞退は嫌だ」という思いで翌日の最終審査を受ける決意を固める。

しかし母親は娘の決意を認めず、翌朝、長崎へ娘を連れ戻すために上京。長濱は有無を言わさず長崎に連れ戻され、最終オーディションを受けることができなかった

長崎の自宅に帰宅すると、悔しくて泣きじゃくる。そんな長濱の様子を見かねた父親が運営スタッフに相談。相談を受けたスタッフは両親と本人を福岡国際センターで行われていた乃木坂46のコンサート『真夏の全国ツアー2015』に招待した。そこで乃木坂46メンバーの父親のコメント映像を観てそれぞれの家庭でも悩みながら娘を送り出していることを知り、また歌い踊るメンバーが輝いている姿を観て、両親は「娘を後押ししよう」と気持ちが変化。

両親はコンサート終了後、「娘にもう一度チャンスをあげて欲しい」と申し出、運営スタッフによる話し合いの結果、3次審査まで高い評価を得ていた長濱を特例として欅坂46に加入させることが決定した

ただし、最終オーディションを受けていない長濱はそのまま他のメンバーと同様に加入するのではなく、まずは欅坂46におけるアンダーグループ「けやき坂46」(「欅坂46」と区別するため、平仮名で表記するとともに「ひらがなけやき」と呼称)のメンバーとして活動をスタートすることとなった

出典:エケペディア「長濱ねる」

引用に登場する「けやかけ」の動画も、YouTubeで見ることができました。ここで「長濱ねるのストーリー」に出会うのです。

「アイドルになりたい」と夢を叶えようと受けたオーディションに合格しながらも、親の理解を得られず辞退。しかし、スタッフが乃木坂46のコンサートに長濱ねるさんの両親を招待したことから「アイドルになる」ことへの理解が深まり、途中参加ながらも新加入が決まった。「夢と家族との間で葛藤しながら、成長していくアイドル」を、テレビ番組の映像を通して追体験できたのです。さながら演技や台本のない「リアリティショー」を見させられているかのようでした。

これをきっかけに、YouTubeにアップされた「けやかけ」の動画を、「アイドルの成長ストーリー」として見るようになりました。時系列に追って見ていくことで、メンバー21人(漢字欅)のそれぞれのキャラクターを理解し、顔と名前が一致してくるのです。

試しに「けやかけ」のwikiで、どんなテーマで番組が構成されているかをご覧いただければ一目瞭然です。「心理テスト」「リアクションチェック」「料理チェック」「ポンコツ女王決定戦」「じぶんヒストリー」など、各メンバーの個性を引き出すべく、さまざまな番組企画が用意されているのです。メンバーの家族も巻き込む「メンバーの事をもっと知りたいので家族に緊急アンケート」なる企画までありました。

YouTubeで「けやかけ」の番組を追体験するうちに、驚くべき変化に気づくことになります。

情報処理能力が上がった!?

そうこうするうちに、なんと「サイレントマジョリティー」や「不協和音」のMVに登場する、同じ制服を着ていてパッと見では見分けのつかなかったメンバーの顔が判別できるようになり、誰がどのポジションにいるのかを理解できるようになったのです。

おそらく初見の人や、「けやかけ」をまったく見たことがない人は、この「不協和音」のMVに登場するメンバーが誰が誰だか、わけがわからないでしょう。せいぜいわかるのは、センターにいるのが平手友梨奈さんであることぐらいです。

こうなってくると、欅坂46のMVを見るもの楽しいし、出演している色んな動画を見るのが楽しくなってきます。「へー、◯◯◯って、こんな演技するんだ」「◯◯◯ってダンスうまいんだな」と、キャラクターが読み込めるようになるからです。簡単にいえば、映像に対する自分の情報処理能力が上がったことを実感できるのです。

やがて「けやかけ」で見るべき動画もなくなり、各メンバーのブログをのぞくようになり、さらなる欅坂46のキャラクターが垣間見られる新たな素材を探すようになります。これが2番目の転機です。

課金の壁をゆうゆうと超える

まず見たのはAmazonプライム・ビデオにあった「徳山大五郎を誰が殺したか?」という欅坂46が出演しているドラマです。その前からもAmazonプライムの会員だったので、手軽に見ることができたからです。毎夜、1話づつぐらいのペースで見終わりました。欅坂46ファンにとっては、けっこう面白かったです。

次に出会ったのが日本テレビの「KEYABINGO!」です。この番組はYouTubeではほとんど違法アップロードされていません。ということで、月額1,007円(税抜933円+税)のhuluに加入することになりました。

さすが日テレ、「KEYABINGO!」では地上波では放送されていないhulu限定のコーナーがあります。欅坂46メンバーがパジャマで女子トークするというコンセプトの「KEYAROOM」というコーナーです。リアルタイムで「KEYABINGO!」を録画して見ていても、「KEYAROOM」はhuluに課金しなければ見れません。おそらく大人のファンならば課金に躊躇はないでしょう。こうして大人は課金の壁をゆうゆうと超えるのです。

こうなってくると、無料で満足していた欅坂46の曲も、全曲を聴いてみたくなってきます。折しもファーストアルバム「真っ白なものは汚したくなる」が2017年7月に発売されてばかりでした。YouTubeでは欅坂46の曲がすべて聴けるわけではないので、当然、買って聴くことになりました。

そして、現在。欅坂46の5thシングル「風に吹かれても」に合わせて開催される、「個別握手会」なるものに参加したい、と思うようになりました。ただ気づいたときには第1次応募が終わっていたので、人気メンバーの枠は売り切れとなっていたため、参加は次回以降になりそうです。記事を書くきかっけになった長濱ねるさんに会ってみたかった…。もちろん、握手会の参加にはCDを購入することが必須です。

で、アイドルビジネスの話

「お前が欅坂46にハマったプロセスを聞いて、何になるんだ?」と思われたに違いありません。その通りです。ここまでは、あえて考察をはぶいて話を進めてきました。前置き長すぎですが、本題はここからです。3つのことを考えたいと思います。(なお、私はアイドルビジネスについてはまったくのシロウトですので、粗い分析になることをあらかじめご承知おきください)

  1. 最近のアイドルはなぜ大人数なのか?
  2. なぜ握手会とCDがセットで売られるのか?
  3. 秋元康プロデュース圧勝の理由

1. 最近のアイドルはなぜ大人数なのか?

カンが鋭い方は、ここまでの話で、すでにお察しのことかもしれません。私は、「サイレントマジョリティ」を初めて見たときから、欅坂46の関連動画をちょっちゅう見るようになり、徐々にMVに登場するメンバーの顔を見分けられるようになり、それぞれのキャラクターを読み込めるようになった、という話をしました。

これは、いってみれば「学習のプロセス」そのものです。最初はできなかったこと(メンバーを見分ける)が、ある訓練をすること(関連動画をたくさん見る)により、できるようになった(情報処理できた)のです。

知れば知るほどメンバーそれぞれのストーリーや背景を知ることができ、彼女たちのキャラクターや奥深さを理解できるようになってきます。すると、同じ「欅坂46ファン」と話すのもおもしろくなり、会話する喜びも得られるようになります。つまり学習の効果が他者を通じても実感できるのです(表現が正しいかはさておき)。

もちろん、アイドルグループのメンバーが学校のひとクラスぐらいの人数であれば、推し(好きな人)も出てくるだろう、という当たり前の理由もあると思います。しかし、実感として、自分にとっては「学習する楽しさ」のほうが大きかったように思います。シンプルに、知らないことを知るのは、とても楽しいことなのです。

そして、アイドルが大人数である理由は、アイドルビジネスを展開する側からの要請でもあります。それが次の項目につながります。

2. なぜ握手会とCDがセットで売られるのか?

CD単体では、ほとんど価値のないことが、オリコンの2016年度年間シングルランキングからも明らかでしょう。ジャニーズのアイドルである嵐、SMAP、Hey!Say!JUMPをのぞけば、すべて秋元康プロデュースのアイドルが並んでいます。数えてみると、ベスト20のうち15組が秋元康プロデュースのアイドルグループでした。

  2016年度年間シングルランキング  
全52週   期間:15年12月14日~16年12月11日  
2016年 売上枚数 アーティスト「シングル」 発売日
1位 1,519,387 AKB48「翼はいらない」 16/06/01
2位 1,294,962 AKB48「LOVE TRIP/しあわせを分けなさい」 16/08/31
3位 1,213,660 AKB48「君はメロディー」 16/03/09
4位 1,202,533 AKB48「ハイテンション」 16/11/16
5位 910,811 乃木坂46「サヨナラの意味」 16/07/26
6位 851,229 乃木坂46「裸足でSummer」 16/11/09
7位 828,533 嵐「I seek/Daylight」 16/05/18
8位 828,315 乃木坂46「ハルジオンが咲く頃」 16/03/23
9位 541,121 嵐「復活LOVE」 16/02/24
10位 471,619 嵐「Power of the Paradise」 16/09/14
11位 467,845 欅坂46「二人セゾン」 16/11/30
12位 439,774 SMAP「世界に一つだけの花」 03/03/05
13位 392,719 欅坂46「世界には愛しかない」 16/08/10
14位 376,871 欅坂46「サイレントマジョリティー」 16/04/06
15位 365,328 SKE48「チキンLINE」 16/03/30
16位 363,583 NMB48「僕はいない」 16/08/03
17位 332,231 HKT48「最高かよ」 16/09/07
18位 324,415 SKE48「金の愛、銀の愛」 16/08/17
19位 308,610 Hey!Say!JUMP「真剣SUNSHINE」 16/05/11
20位 305,137 HKT48「74億分の1の君へ」 16/04/13

出典:「オリコン年間 CDシングルランキング 2016年度」

もちろん、CDを購入するときに、いちばん目当てにするのは特典の握手会です。なぜファンは握手会の参加券が付いたCDを買うのか? 理由はシンプルです。楽曲やMVはコピーできても、生身の人間であるアイドル当人との握手はコピーすることができないからです。つまりダイヤモンドや金と同じように、希少な材だからこそ価値を感じることができ、何の疑問もなくファンはおカネを払うのです。もちろん、タイプによってジャケットに登場するメンバーが違うことも、ファンのコレクター魂に火をつけるのかもしれません。特に、最近ではCDごとにカップリングで入る曲やMV特典さえ違っています。ですが、ファンにとってはそれ以上に握手会への欲求が勝っているような気がします。

CDを売るためには、握手会を開催するしかない。これがアイドルビジネスを行う側の要請です。ところが、握手会にはCDとは異なる、大きな制約があります。握手をするアイドルは生身の人間であり、CDのように無限に複製することができないため、限界数がおのずと決まってくるのです。

たとえば、ももいろクローバーZのメンバーは百田夏菜子さん、玉井詩織さん、佐々木彩夏さん、有安杏果さん、高城れにさんの5人しかいません。単純計算をしてみましょう。1日6時間を握手会にあてるとして、1人のファンとの握手が5秒として、1分で12人。60分で720人、6時間で4,320人です。1日6時間、5人で握手会を実行すると21,600人。つまり、ももクロのCDセリングパワーは1日に21,600枚です。

これが欅坂46では、どうなるでしょうか。現在、「漢字欅」メンバーと「ひらがなけやき」メンバーを合わせ、32人のアイドルがいます(ひらがなけやき追加メンバー9人をのぞく)。1日6時間、32人で握手会を実行して、すべての枠が埋まるならば138,240枚のCDを売ることができます。5人に対して32人ですから、単純計算で6.4倍です(なお個別のファン数を反映した厳密な計算ではありません)。つまり、アイドルは大人数だと強力なセリングパワーを持つことができるのです。ちなみに欅坂46の5thシングル「風に吹かれても」の発売を記念した「個別握手会」は、全6会場×6日間で開催されます。20、30万枚は軽く売れそうな計算です…。

こうして順番にアイドルビジネスをひも解いていくと、やがて秋元康プロデュースのアイドルが、なぜ圧勝するかが見えてきます。

3. 秋元康プロデュース圧勝の理由

大人数のセリングパワーでCDの売り上げを伸ばし、オリコンランキングを席巻すれば、必然的にテレビや雑誌、ラジオで話題となります。視聴率をとりたいテレビ、雑誌を売りたい出版社は、自社媒体の利益になる売れる素材を常に探しています。深夜のバラエティ番組(欅坂46では「けやかけ」)でテレビ映えを学び、わかりやすいキャラクターが板についている秋元康プロデュースのアイドルは、そもそも素材として使いやすいのかもしれません。

驚いたのは、秋元康プロデュースのアイドルが持つ、ビジネスモデルの構造です。前述の通り、最近になり欅坂46の握手会に参加しようとしたわけですが、私は1つカン違いをしていました。TSUTAYAやタワレコで買ったシングルには、握手会のチケットが付いてないのです。欅坂46の握手会に参加するには、「フォーチュンミュージック」というWEBサイトでCD購入を予約して、握手会の抽選をうけなければならないのです。

(出典:「フォーチュンミュージック」イベント応援サイト

「CDショップをつぶす気か!」と思いました。このWEBサイトの運営会社は株式会社ソニー・ミュージックマーケティングです。つまり、欅坂46のCDのパブリッシャーであるソニー・ミュージックがすべてを仕切っています。言い方を変えれば、直販モデルで利益率を挙げ、その利益を握手会の開催に回していたのです。

幕張メッセやパシフィコ横浜を借りて握手会をやるには、会場費、スタッフの人件費、もろもろの費用がかかります。その資金を直販モデルで捻出しているのかもしれません。CDショップには申し訳ないことですが、ビジネスとしてはとても合理的だと感じました。

あとあと気づいたのですが、テレビ東京で放映中の「欅って、書けない?(通称:けやかけ)」のメインスポンサーはソニーミュージックです。CMではひたすら欅坂46のCDを宣伝しています。そこでもソニーミュージックは資金を投入してリスクをとっているわけです。「なるほど!」と思いました。

そう考えていくと、たしかにソニーミュージックからすればYouTubeに違法アップロードされている「けやかけ」の動画をわざわざ消す必要はありません。私のように、欅坂46にハマるプロセスの中にはYouTubeが組み込まれているからです。

リスクをとってくれるパブリッシャー(レコード会社)をしっかり抱え、スポンサードしてマスメディアをうまく巻き込み、握手会をセットにしたCDの販売でおカネをしっかり回収する。秋元康プロデュースのアイドル、恐るべし。アイドルビジネスで圧勝するのは当然です。

以上が「欅坂46で学ぶアイドルビジネス」でした。いかがだったでしょうか。お前が欅坂46が好きだってことをアピールしたいだけだったじゃないか、というツッコミはご遠慮ください。

さて、スティーブ・ジョブズならば、ここで「One more thing(ワン・モア・シング)」と言うところでしょう。アイドルビジネスの考察を通じて、とても大事なことに気づきました。それは、「メディアの構造が変化している」という事実です。

最後に、「メディア構造の変化」について

「ライブアイドル」という言葉は、「会いに行けるアイドル」だったAKB48の誕生(2005年12月8日)と共に生まれたといって過言ではありません。Wikipediaでは、「マスメディアへの露出よりもライブ等を中心に活動するアイドル」と定義されています。AKB48の分析は宇野常寛さん、さらには地下アイドルや「現場」の考え方を含めれば濱野智史さんが詳細に解説されている通りですが、ライブアイドルは(たぶん)SNSと表裏一体の関係にあります。

ざっくりと書けば、アイドルの現場で得られた「◯◯◯ちゃんがこんなことを言っていた」「◯◯◯ちゃんは◯◯◯らしい」などの情報は、それぞれのファンのSNSで報告されます。それがインターネット(たとえばエケペディア)を介して共有されることで、各メンバーのキャラクター付けがなされ、イメージが増幅する。つまり、アイドルの個性は、ボトムアップ的にファンから生成されていました。

ところが、現在はどうでしょうか。秋元康プロデュースの乃木坂46、欅坂46は、レコード会社のスポンサードのもとで、デビュー前からテレビの深夜番組(さらにはラジオ)のレギュラー枠を与えられて、プロ(番組制作会社)によりメンバーの個性は掘り下げられています。

テレビやラジオなどマスメディアの番組で披露されたアイドルの姿は、さらに「ネットニュース」という媒体により、拡散されます。たとえば「欅坂 ニュース」のキーワードで検索してください。リアルサウンド、rockinon.com、モデルプレスなど、さまざまなネットニュースメディアがテレビや雑誌、ラジオなどで流された情報をもとにニュースを書いていることに気づきます。

さらに、最近ではテレビ局、ラジオ局みずからが自社の番組で流れた映像や音声を、「写真」と「文字」に書き起こすことで、ニュースとして配信するようになりました。4年以上も前に考えたことが現実になったのだと感慨深いです。欅坂46でいえばニッポン放送でレギュラー枠を持っているので、ほぼ毎回「オールナイトニッポン.com」というサイトのニュースとして配信されています。ラジオ局は書き起こしとの相性がいいのか、「TOKYO FM+」「TBSラジオ」などSmartNewsでニュース配信をしている局が多いです。テレビ局はニュース以外だと「Abema TIMES」に刺激を受けたのか、テレビ朝日が「テレ朝POST」でがんばってます。イメージにするとこんな感じです。

マスメディアでつくられた番組やYouTubeのMVが、SNSで話題になったりネットニュースになる。大人数のセリングパワーでCDの売り上げランキングに入れば、必ずニュースになるのでカンペキです。さらにSmartNewsやGunosyなどのニュースキュレーションアプリに取り上げられることで、話題が増幅されてSNSで広がり、それに気づいた人がテレビやラジオやYouTubeを見る。さらにニュースバリューが上がったアイドルは、SNSで話題になったりネットニュースになり……こんな感じで潜在的な顧客にリーチしてファンを増やしていきます。言ってみれば、ネットメディアやニュースキュレーションアプリという増幅装置を介して、SNSとマスメディアが蜜月を築き上げているのです。

「アイドルが夢」は搾取されていないか

「今はライブアイドルで下積みをしているけど、いつかはCDでメジャーデビューして、テレビや雑誌で華やかに活躍するんだ…」

そんな女の子がいっぱいいると思います。たまたま、イオンモール幕張新都心で「IDOL CONTENT EXPO@イオンモール幕張新都心」というイベントに遭遇したのですが、40組近いアイドルグループが出演していて、それぞれに盛り上がりを見せてました。

でも、本当に秋元康プロデュースのアイドルグループに勝てるのでしょうか? 前述の「ライブアイドル(現場)+SNS」から「SNS+マスメディア with ネットメディア&ニュースキュレーションアプリ」というメディア構造の変化を考えると、そう簡単に勝てるとは思えません。「ライブアイドルから、いつかはメジャーへ」という物語が成立する環境は、すでに過去のものとなっているのかもしれません。

ライブアイドルの弱点は、アイドルにとって希少な材であるはずの握手やチェキなどの「接触」を安売りしていることです。現在のメディア環境ならば、SNS・MV・ネットメディア・マスメディアを巧みに組み合わせて、アイドルグループのイメージを過剰に増幅させた上で、「接触」を高く売るべきでしょう。「アイドルが夢」という女の子たちをおじさん、お兄さんたちの前に毎日のように立たせて、チェキで小銭を稼いでいる場合ではないのです。

では、どうしたらいいのか? きっとそれを考えるのがプロデューサーであり、ある意味で似た職業である編集者のような立場の人間なのでしょうね。アイデアはあります。たとえば、アイドルも映画のようにファイナンスから流通まで一気通貫で統合して、垂直立ち上げでデビューさせるのはどうでしょうか。このあたりも詳しく書きたいところですが、さすがに長くなったのでその考察はまたの機会とします。

ちなみに、この記事の文字数を数えたら約1万字ありました。私の趣味にお付き合いいただき、ありがとうございました。ではまた次回。

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