あなたのつくるプロダクトは「動詞」になるか?

最近、「カーシェアリング」をよく使うようになりました。週末に1日、人を送り迎えするのに2、3時間と借りたいときすぐに、スマホのアプリ内で予約もキャンセルもできるので、とても便利です。

(出典:Wikipedia「タイムズカープラス」

「クルマ好き」ではなく、クルマはただの移動手段なので、マイカーを購入するという選択肢はありません。駐車場代だけでも月に2、3万円する東京都に住んでますし、保険代、車検代、自動車税、クルマのローン等々、どう計算しても「カーシェア>マイカー」です。

こんなことが、ありました。

クルマを借りて、2泊3日の小旅行へ出かけようとしたときです。「カーシェアよりレンタカーのほうが安いかな」と、「じゃらん」でレンタカーを探すと、思ったとおりクーポン付きで1万5千円ほどで借りられることがわかりました。レンタカー店までは家から徒歩15分です。いちおうカーシェアも確認しておこうと、同じ2泊3日で借りると1万8千円ほどです。「3千円安いならレンタカーか」と予約しました。でも、最終的には、3千円高いカーシェアで予約をしなおすことにしました。なぜか?

3千円も高いカーシェアを選んだ3つの理由

カーシェアを選んだ理由は、次の3つです。

第1に、レンタカーはキャンセル料がかかるからです。1週間前から10%、前日だと50%。一方、カーシェアは無料です。突然の仕事で、病気で、いつキャンセルになるかわかりません。融通がきくカーシェアに軍配が上がりました。

第2に、カーシェアのステーションまで近いからです。家からたった徒歩3分です。「たった徒歩10分ほどの時間で…」と思われるかもしれませんが、みなさんも徒歩15分でちょっと価格が安いスーパーより、徒歩3分のコンビニを利用するはずです。それと同じ理由です。

第3に、カーシェアは手続きが圧倒的にラクだからです。カーシェア使うときはスマホのアプリで解錠するだけ。ステーションはもちろん無人です。一方で、レンタカーは遠くまで歩いて店に行き、手続きをしておカネを払い、契約書みたいなヤツにサインして、クルマに乗る前に外装のキズを確認して…あーめんどくさい。たかだか10分ほどの時間ですが、カーシェアの圧倒的にストレスない体験を知ってしまうと、レンタカーの手続きが煩雑に思えてきます。おまけに「ガソリンを満タンにして返却しろ」だと…。

なので「1万8千円のカーシェア>1万5千円のレンタカー」となりました。au「三太郎の日」にドーナツ2個を無料でもらうためミスタードーナツに1時間並ぶ人たちからすれば、3千円高いカーシェアを選ぶなんて、まったく理解できない選択かもしれませんね。私はドーナツ2個に1時間も並ぶほうが理解できませんけど。

今回のテーマは「ジョブ理論」

さて、今回の記事は「書評」です。クレイトン・M・クリステンセン他著・依田光江訳)『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』をご紹介したいと思います。

言わずと知れたクリステンセン教授の新刊なので、「積ん読」になっている方も多いに違いありません。

どんな”ジョブ(用事、仕事)”を片づけたくて、あなたはそのプロダクトを”雇用”するのか?

ブログをよく書いていた4、5年前のことですが、『問題解決ドリル』の著者でありBlaboで代表を務める坂田直樹さんから「WEBやアプリなどのネットサービスは、ユーザーの課題を解決しなければいけないんです」とよく聞かされていました。まさにその考え方を理論にした本が『ジョブ理論』なのだと思いました。

マイカーでもレンタカーでもなく、なぜカーシェアを雇用したのか? 本書に照らし合わせながら考えると、とてもよく理解ができました。学術書とは思えないほど、たくさんの事例でわかりやすくかかれている本書ですが、こんな事例がありました。

ある会計ソフト会社が「機能が半分で、価格が2倍」の新製品をつくりました。これが爆発的にヒットします。またたく間にオンライン会計ソフトの世界No.1になっとといいます。「高機能なものが売れる」という常識からすると、ありえないことです。その理由をクリステンセン教授は次のように洞察しています。

調べてみると、誰も洗練された会計ソフトウェアを望んでいなかったことが判明した。彼らはただ、請求書を送り、現金を回収し、請求された金額を支払うといった、自社の金銭処理が滞りなく機能していることがわかればそれでよかった。つまり彼らがなし遂げたい進歩は、何をするかではなく、何をしたくないかだった。

顧客のジョブは、公認会計基準の複雑な仕組みを反映した高機能な機能ではなく、会計用語がどこに出てこず、何も考えずラクに会計できることだった、というわけです。「片づけるべきジョブに応える最適なプロダクトがあれば、顧客は多めに支払うこともいとわない」。非常に説得力のある事例でした。

レンタカーとカーシェアの違いが見える

「ジョブ理論」は、「プロダクト(製品)・サービス」を見るときの1つのフレームです。個人的にも、かなり便利なモノサシを手に入れた実感があります。

冒頭のレンタカーとカーシェアの違いでいえば、雇用する私のジョブは明確です。「旅行先の宿まで、電車ではなくクルマで出かけたい」です。東京は人口過密都市なので、新幹線や特急が発着するターミナル駅はとにかく人が多い。重い荷物を持って乗り換えの階段を昇り降りしたくない。だからクルマで行きたい。

かといって「3つの理由」に挙げた通り、クルマを雇用するためだけに、やりたくないことがたくさんあります。マイカーならば購入代金や駐車場代などの維持費を払いたくない。レンタカーならばキャンセル料を払いたくない、クルマのあるステーションまで歩きたくない、手続きに時間をかけたくない、ガソリンスタンドに寄りたくない…。

「片づけるべきジョブは何か?(Job to be done)」にフォーカスすると、レンタカーとカーシェアの違いがはっきりと見えてきます。私にとって、カーシェアはジョブを片づけるのに最適なサービスなので、レンタカーより3,000円高くても支払うことにためらいはなかったのです。

適切に定義されたジョブはイノベーションの青写真になる。これは従来のマーケティングでよく言及される「ニーズ」とは大きく異なる。ジョブはそれよりはるかに細かい明細化を伴うからだ。(中略)ニーズはトレンドに似ている――方向性を把握するには有益だが、顧客がほかでもないそのプロダクト/サービスを選ぶ理由を正確に定義するには足りない。

クリステンセン教授は、従来のマーケティングとの違いをこのように述べています。今までは「ニーズ」という言葉に集約させてしまうことが多かったので、ハッとさせられました。ニーズで方向性をつかみ、片づけるべきジョブに着目することで、新たなプロダクト/サービスを生み出す。なるほど、いくら年齢、性別、居住地、家族構成、職業などのデモグラフィック・データを分析しても、売れるプロダクトはつくれないのですね。

あなたのつくるプロダクトは「動詞」になるか?

最後に、自分自身がプロダクトを考えるにあたり、いちばん参考になると感じた話を紹介します。私の電子書籍では、その部分にたくさんの線が引かれ、黄色いハイライトで輝いています。

パーパスブランドは、その名を聞いただけで、片づけたいジョブに対しての完全かつ具体的な体験が思い浮かぶ。商品を買うという行為を人に起こさせるメカニズムと結びついているのだ。

「ジョブ理論」における「パーパスブランド(purpose brands)」についても、本書ではさまざまな具体的なプロダクト名が挙げられ、解説されています。たとえば、北欧・スウェーデン発の家具量販店「IKEA(イケア)」は、「『アパートメントの家具をきょうのうちに設置し終えたい』というジョブのパーパスブランドになった」と述べられてます。イケアで売られているのは、自分で組み立てなければいけない家具ですが、それは「明日から仕事なので、きょうのうちに新居を住めるようにしなければならない」という顧客のジョブに基づいている、とクリステンセン教授は分析しているのです。新たな見方だと感じました。

さらに、パーパスブランドは、特定のジョブと強く結びついた場合、「動詞」になることがあります。

スターバックスやグーグル、クレイグリストなど、パーパスブランドになった数多くのブランドは(中略)やがて強い力をもち、「ググる」のような動詞になっていった。これらが成功したのは、それぞれが明快な目的に結びついていたからだ。つまり、明快な片づけるべきジョブのまわりに最適化されていたのだ。

「プロダクトが動詞になる」というインサイトに似た考察を4年前の記事で書いたことがあるのですが、「これか!」と思いました。

あなたのつくるプロダクトは「動詞」になりますか?

「スタバる」が辞書に載っていてビビったのですが、「ドトる」「マクドる」は片づけるべきジョブに結びついていないかもしれません。「LINEする」は普通です。「食べログで探す」は置き換えがむずかしいので、すでにパーパスブランドかも。「つべる」はネットスラングですね。知らない人はググって!

「スマニューする」「アマゾる」は…うーん、まだないな。「フーるー」「クックパどる」「ザイムる」あたり、パーパスブランドを目指して! 某有名人の不倫で有名になった某ビジネスホテルも「アパる=ビジネスホテルで不倫する」で動詞になっていたら面白かったですね。ウソです。ごめんなさい。

読み返しましたが、いい本です

記事を書くにあたり、あらためてクレイトン・M・クリステンセン他著・依田光江訳)『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』を読み返しましたが、やっぱりいい本です。私にとっての「いい本」の定義は「世の中の見方が変わる」です。

なぜ「世の中の見方が変わる」といいのか? 簡単です。いま生きているこの世界が、もっと面白くなるからです。「片づけるべきジョブは何か?(Job to be done)」にフォーカスすることで、少なくても私が利用するいくつかのプロダクトの本質を垣間見ることができました。

私が所属する出版社では、語学や料理、ハンドメイド、園芸、健康といろいろな実用書を出版しているのですが、それぞれのジョブから考えると、本の立ち位置ってむずかしいですね…。もっとよく考えてみます。

ちなみに、会社の仕事としてサービスの立ち上げにかかわった「みんなの趣味の園芸」という園芸・ガーデニングのコミュニティサイトがあるのですが、このサイトの集客動線は、「チョコレートコスモス 育て方」とググったときに上位に出てくるところにあります。つまり「(植物名) + 育て方」ですね。ためしに「好きな植物名」と「育て方」で検索してみてください。きっと上位に表示されるはずです。

「みんなの趣味の園芸」は2017年5月に月間ユニークユーザー数が200万人を超え、私が知らず知らずのうちにブランドが育ってました。すごいことだと思います。動詞になってはいないけど、「植物の育て方を学び、仲間との交流を楽しむ」という園芸・ガーデニングのパーパスブランドに少しでも近づけているのでしょうか。運営している人たちが優秀であることが最大の理由です。加えて、中心コンセプトが「園芸・ガーデニングの適切なジョブにフォーカスしていた」ことが大きかったのではないか、と思いました。

こんな感じで、『ジョブ理論』を読んで、ぜひみなさんも自分の仕事をふり返ってください。きっと新たな視点が生まれているはずです。

「顧客が雇用したがる」とあらかじめ予測できるプロダクト/サービスにあなたの時間とエネルギーと資源を注ぎ込むのだ。

ではまた次回。

シェアする

フォローする