ホットペッパーに勝つ方法はあるか?

前回は「メディアビジネスは今すぐやめましょう」というテーマでした。記事はフェイスブックで1,300いいね!をいただき好評でしたが、やはり抽象的な内容だったせいか「そもそも行動モデルはどのようにデザインすればいいのか?」とご質問を多数いただきました。なかなか1つの記事では説明しきれないものですね。

また「行動モデル」のわかりやすさを優先するため、グルメ系サービスの「ホットペッパーグルメ」を例にしましたが、「結局リクルートがもっていくのかよ」との悲観的な意見もいただきました。お気持ちはよくわかります。

しかし、そんなことは決してありません。私はリクルートに対抗するための方法論として「行動モデル」を提示したつもりです。そこで今回は「ホットペッパーに勝つ方法はあるか?」というテーマで、「行動モデル」の基礎的なデザイン手法を解説したいと思います。

受動的アプリは「大逆転」できる?

まず、前回のおさらいです。「行動モデル」とは、ユーザーに対して特定の行動を促すことで「プロダクト(サービス/製品)」を消費させ、その「提供者になって/提供者側から」おカネを得る仕組みです。「行動モデル」は「PC→スマートフォン」へシフトするなかで生まれました。比較すると次のようにまとめることができます。

「ホットペッパーグルメ」のアプリはどのようにデザインされているでしょうか? 実際に使ってみると、アプリを開いた瞬間から「飲食店を探す」ための設計になっていることがわかります。

言い換えると、ユーザーの能動性が求められる設計です。どうやらPC時代の使用感(ユーザビリティ)と大きくは変わっていないようです。

しかし、すでに過去の記事「なぜスタディサプリは破壊的なのか?」「さよならクックパッド」でご紹介した通り、ユーザーは本来スマホでは受動的に向き合うことが多いはずです。

もし、これを「行動モデル」の発想で、受動的なサービスにつくり直せば、「スタディサプリ」「クラシル」「デリッシュキッチン」のように、「大逆転」の可能性があるグルメ系サービスをつくれるかもしれない。しかし、具体的なサービスがあるわけではありません。いまだ存在しない「ホットペッパーに勝てるかもしれないサービス」をどのように解説したらいいか? 1週間ほど悩みました。

そして、ついに、その方法を思いつきました。逆転の可能性がありそうなサービスに、勝手にツッコミを入れながら解説すればわかりやすいかもしれない。私はこれを「エアコンサル(勝手にコンサルしてみた)」と名づけて、本日披露したいと思います。

「エアコンサル」という初の試みに選んだ題材は、ランチがワンコイン500円で食べられるお得なランチブック「ランチパスポート」です。

ランパスはなぜ一気に全国へ広まったのか?

みなさんは「ランチパスポート(ランパス)」を買ったことがありますか? 全国42都道府県以上で発行(予定を含む)されており、書店で本を1000円前後で購入すると、ランチがワンコインで食べられるというサービスです。

有効期限は3か月、1店舗あたり利用は3回までと決まっており、使用後は本にスタンプが押されます。通常700円以上で提供されているランチを500円程度で食べられるため、5回ランチで使えばもとが取れる計算です。

(出典:「ランチパスポート公式サイト」

TKC『戦略経営者』の2015年9月号「特集 – 小さな会社のヒットの法則」の記事によれば、高知市でタウン誌を発行する出版社「ほっとこうち」が2011年4月に初めて「ランチパスポート」を創刊し、一気に全国へと広まりました。

地方のタウン誌から始まった本が、なぜ全国へ急速に広がったのでしょうか? 理由は、ランパスのユニークなビジネスモデルにあります。まず飲食店の情報を本に載せるのに、店舗側はいっさい掲載料がかかりません。出版社は100ページほどの本を1000円前後という高価格で売ることができ、その売り上げで出版社が収益を得るモデルだからです。しかも、本を購入したも安くランチが食べられます。まさに三方良しです。開始早々から飛ぶように売れ、大反響だったといいます。

しかし、じつに単純なビジネスモデルです。なぜ真似されずに成長することができたのでしょうか? 記事には次のように書かれています。

当然同社の成功は、すぐに同業他社の耳に入ったはずである。二匹目のドジョウをねらう模倣版が続出する可能性もあった。同社経営陣は大ヒットにも有頂天にならず、冷静に次の手を打つ。コピー商品防止のため商標登録を済ませたのに加え、取得企画そのものをパッケージ化して出版社などにライセンス販売することによって全国展開する戦略を実行したのである。

共同事業者である出版社エス・ピー・シー(愛媛県)が提供している自動組み版システムを導入することで、書籍制作未経験の企業でも発行元になれる仕組みも構築。同じ組み版システムを使えば表紙デザインや紙面構成にも統一感が出る。その結果、数多くの類似品が出回るなか同社の展開するランチパスポートは、「第一人者としての本物感(本吉専務)」を維持することに成功した。

(改行、太字は筆者)

よく見ると、たしかにパスポート(旅券)に似せた統一感のあるデザインで、オーソリティー(本物)の感じがよく出てますね。ランパスはいわばフランチャイズのようなカタチで、各地の出版社とパートナーシップを築き、一気に全国区へと広がったのです。

ランパスのアプリ登場

最近になり、ランパスのアプリが登場しました。月額380円で、本と同様のサービスが提供されています。スマホのアンドロイド向けアプリサイト「グーグルプレイ」でのインストール数は100,000~500,000本となってます。iPhoneなどiOSがもう半分とするなら、数十万ダウンロードの規模はあるようです。

アプリのレビュー評価が非常に悪いですが、私が使っていても何回もアプリがオチるぐらいですので、サービスの評価というより技術の悪評価でしょう。もうちょっと頑張って、何とかしたほうがいいと思います…。

さて、ランパスの紹介はさておき、さっそく「エアコンサル(勝手にコンサルしてみた)」を実践してみましょう。アプリのトップ画面はこんな感じです。スマホのGPS(位置)情報に基づき、近くにあるランパス対応のお店がマップで見られます。

パッと見た印象では、さほど問題あるように見えません。ランチをお得に食べられるし、近くにたくさん店があることがわかるので、とても便利そうですね。しかし、「行動モデル」のデザイン手法を用いれば、もっと受動的なサービスに改善できそうです。次の3つのポイントから解説しましょう。

  1.  行動のポジションを確認する
  2.  「受動的な体験」をデザインする
  3.  つい触ってしまう「きっかけ」を考える

1. 行動のポジションを確認する

まず「ランチパスポート」におけるユーザーの行動を、ポジショニングマップから考えてみましょう。「行動モデル」では、スマホアプリを次のように「頻度(frequency)」が高いか低いか、「意志力(will power)」が必要か不要か、2つの軸でとらえます。

たとえば「暇つぶし」という動詞のなかには「ゲームする」「動画を見る」「SNSを見る」「ニュースを見る」など、競合するさまざまなアプリが存在します。以前「がんばれ僕らのアベマTV」で考察したとおりです。動詞のポジショニングに厳密さは必要ありません。自分の扱うアプリビジネスがどのあたりに位置づけられるのか、おおよそのポジションを知っておくことが大切です。

「頻度」は「行動モデル」のビジネスを設計するうえで重要な概念です。もし、あなたがつくるアプリの行動頻度が少なければ、ユーザーに消費させる「プロダクト(サービス/製品)」の「単価(unit price)」が高くないと売り上げが増えません。売り上げは「頻度 × 単価」のかけ算で決まるからです。もっと言えば、「頻度」が少ないとそもそもスマホアプリを身体化する意味がなく、提供するアプリがユーザーのホーム画面からすぐに消されてしまいます。

ランパスアプリのポジショニングはどこにあるでしょうか? 弁当ではなく外食派の会社員であれば、平日はほぼ毎日使ってもらえる可能性があります。「単価」はそれほど高くありませんが、「頻度」は多いため、「行動モデル」のビジネスとしてはOKです。

2. 「受動的な体験」をデザインする

次に重要なのが「意志力」の有無です。「意志力」はなぜ重要なのでしょうか? 理由はシンプルです。意志力が必要になるアプリほど、ユーザーはアプリを開こうとしないからです。学習系アプリの離脱率が高いのは、意志力が理由です。もし習慣的にアプリを使ってほしいなら、気軽に開いてもらえるような「受動的な体験」を用意しなければなりません。図にするとこんな感じです。

スマートフォンは、もともと「受動的な体験」のボリュームが大きいメディアです。たとえば、意志力が必要な「料理する」という動詞について考えてみましょう。クックパッドは「能動的」にデザインされています。「検索」してレシピを探し、どのレシピにするかを「選択」し、「料理する」という行動に至ります。一方で、クラシルやデリッシュキッチンは「受動的」なデザインです。レシピ動画を「ダラダラ見て」、これなら簡単だからつくれそうとレシピを「発見」することで、ユーザーは「料理する」という行動に移ります。

繰り返しになりますが、スマホを操作するユーザーは、アプリを開く瞬間に「意志力」を使います。つまり、アプリを開いた「ファーストビュー(最初にユーザーが見る画面)」に「受動的な体験」が用意されてないアプリは、無意識のうちにユーザーに「面倒だ」と敬遠されてしまいます。こうした能動と受動の体験が、クックパッドとクラシル&デリッシュキッチンの大きな違いになってます。

「メルカリ」のアプリは、ファーストビューに「商品の写真+値段」が並んでいます。なぜでしょうか? 当たり前のように聞こえるかもしれませんが、ウィンドウショッピングのように「ダラ見」できるからです。「買い物」という行動自体は、実は「意志力」を必要とします。

でも、「そろそろ冬服がほしいな」という「気分」でメルカリのアプリを開くのには、さほど「意志力」を必要としません。これがユーザーの行動を習慣づける(頻度を上げる)ポイントです。メルカリでは、並んでいる商品を「ダラダラ見て」いるなかで、「これ安い!」と商品を「発見」し、「買う」という行動へ至ります。欲しい商品が顕在化したあとにアクセスする、「アマゾン」のようなサービスとはまったく性質が異なるのです。

では、ランパスの画面(インターフェイス)はどうでしょうか? どうやら最初から「店を選ぶ」ことを前提につくられているようです。

「お腹すいたな。そろそろランチタイムだな」という人がアプリを開く前提ならば、メルカリのように「料理の写真」と「値段」が並んでいるほうが「受動的な体験」になるはずです。特に「料理の写真」が大きいほうが「美味しそう!」という「発見」につながります。店の名前や料理名は「発見」というプロセスにおいて、さほど重要ではありません。

ポジショニングマップを見ると、「ランチする」という行動自体は、料理ほど「意志力」を必要とするものではありません。したがって、「受動的な体験」にそこまでこだわる必要はないでしょう。しかしながら、どちらのデザインが利用頻度を上げるのか、仮説を立てて「A/Bテスト」で検証してみる価値はあります。

3. つい触ってしまう「きっかけ」を考える

スタンフォード大学には「パースウェイシブ・テックラボ(Persuasive Tech Lab)」という研究所があります。英語のパースウェイシブは「説得力のある」という意味です。所長のB.J.フォッグは、「行動」を次のように定義しています。

過去の記事「楽天レシピはなぜクックパッドに勝てないのか?」では「動機」について、「メディアビジネスは今すぐやめましょう」では「能力」について、それぞれご紹介してきました。KOMUGIで紹介する「行動モデル」において、最後のピースになっていたのが「きっかけ(Trigger)」です。

「受動的な体験」が用意されている、いないにかかわらず、スマホを操作するユーザーはアプリを開く瞬間に「意志力」を使います。これを別の言葉に言い換えれば、アプリには「つい触ってしまう」トリガーが必要です。ランパスの「ランチを食べる」という行動のトリガーには、どのようなものがあるのでしょうか?

トリガーのモデルをつくるために、B.J.フォッグの『人を動かすテクノロジ』や関連しそうな近刊『Hooked ハマるしかけ』を読みましたが、どれもわかりにくい説明になっていると感じました。そこで私は「進化心理学」の知見から、シンプルに2つの言葉でトリガーを表現することにしました。

「狩猟採集」のトリガーから考えると、メルカリは1点モノの商品(希少)を、安い価格で「バーゲンハント(bargain hunt)」させているので、とても理にかなっています。リピートするユーザーが多いのもうなずけますね。ニュースのような新しい「情報」は、人間の生存にとって欠かせないものであるため、いつの時代も人間を惹きつけるチカラがあるものです。

「農耕」は、種をまいたあとに、その植物の成長が気になるようなトリガーです。フェイスブックやツイッター、インスタグラムなどのSNSは自分が投稿したあと、つい他人が「いいね」してくれるかの反応が気になってしまうものです。お気に入りのブランドを登録するなど、ユーザーの「行為」に対して、サービス側がどのような「フィードバック」を送るかが重要です。

これら2種類のトリガーをふまえると、ランパスのトリガーはやや弱いと思います。バーゲン価格になっているのは良いですが、1日の使用枚数に上限があるわけではないので、競ってアプリを開く必要性がありません。店をお気に入り登録できるのは良いですが、新着メニューの更新頻度が3か月に1回なので通知することもできず、やはり誘引の動線になりません。

「狩猟採集」と「農耕」という2種類のトリガーをフレームワークとして使うと、ユーザーにアプリを使ってもらうためのヒントや改善点がいろいろと見えてきます。

4大グルメ系サービス vs. ランチパスポート

ここまで「行動のポジションを確認する」「受動的な体験をデザインする」「つい触ってしまう『きっかけ』を考える」という3つの視点から、ランパスの改善点を考えてきました。さて、ランパスが「ホットペッパーグルメ」に勝つ方法はあるのでしょうか?

本題に入る前に、グルメ系サービスを少し整理しておきましょう。4大グルメ系サービスといえば「ホットペッパーグルメ」「ぐるなび」「食べログ」「Retty(レッティ)」です。いずれも、PCの時代に生まれたサービスです。ざっとですが次のように分類できます。

特徴は「検索エンジン」への最適化(SEO)を基本的な流入の動線としており、「渋谷 居酒屋」など場所といっしょにキーワード検索すると上位に表示されるよう、各サービスがしのぎを削っている点にあります。つまり、ユーザーは検索した時点で、そもそも「居心地のいい居酒屋を探したい」「美味しいレストランを探したい」という能動的な動機を持っています。スマホアプリも同じです。冒頭でご紹介したとおり、4大グルメ系サービスのアプリは最初から「飲食店を探す」ための設計になっており、ユーザーの能動性が求められます。

前段は「受動的な体験」をどのようにしたら提供できるかという、ランパスアプリの改善点についての話でした。本来はその改善があってから次の段階に入るものですが、そこはエアコンサルです。ランパスアプリが改善できた前提で、強引に話を先に進めましょう。

リクルート「リボンモデル」とは?

まず外食のうち、いちばんユーザーがおカネを遣うのは「ディナー > ランチ」です。そもそもランパスはいちばん大きいディナー市場を取れていません。しかしながら、ランチだけに「垂直(バーティカル)」に特化するのは、巨大プラットフォームを倒すのに悪い方法ではありません。後からヨコにスライドさせればいいからです。まずは「食べログ」や「Retty」よりも先に開いてもらえるランチのNo.1 アプリを目指しましょう

そのためには、ディスカウント価格にこだわらず、ランチを提供している「すべての店舗」を自社プラットフォームに取り込むのが得策です。なぜなら、アプリを「受動的な体験」に切り替えていったときに、安さよりも美味しそうなランチの写真が並ぶことが重要だからです。

「すべての店舗」のランチをどのようにしたら自社プラットフォームに取り込むことができるでしょうか? ここで意識すべきはリクルートの「リボンモデル」です。「リボンモデル」については、ボストンコンサルティンググループ日本代表の杉田浩章氏が日経BizGateの記事できれいな図を作られているので、そのまま引用します。

(引用:日経BizGate「すべての事業の基盤は『リボンモデル』」

クライアントは「飲食店」です。従来の「リボンモデル」で考えれば、地道に飲食店を営業でまわり、店舗情報やランチメニューの写真/価格など情報を「集める」ことが必要です。しかし、「すべての店舗」からランチ情報を「集める」にはコストが高すぎます。

「集める」から「集まる」へ

そこで考えたいのが、メルカリのようにスマホが1台あれば、かんたんに出品できる時代だ、ということです。ツイッターを運用している飲食店もたくさんあります。ランパスに情報を載せることで集客にたしかな効果が出るならば、「今日のランチ」を自主的に投稿する飲食店を増やすことができるはずです。

「新着メニュー」「クリック数が多い」「距離が近い」「ユーザーの好み」「アクセス時間」など、アプリのファーストビューに表示させるランチメニューを決めるアルゴリズムの「変数」は多岐にわたります。ユーザーが繰り返し訪れたくなるような、あるいは飲食店が競ってランチ情報を掲載したくなるような設計(アーキテクチャ)にできるはずです。

ランチ分野でバーティカルに「食べログ」「Retty」を上回れば、あとは「ホットペッパーグルメ」「ぐるなび」の領域であるヨコ(ディナー)への広げ方を考えるだけです。さすがに長くなりましたので具体的には書きませんが、テクノロジーを適切に用いれば、ユーザーの「意志力」の消耗を防ぎ、飲食店同士が集客を競うような新たなプラットフォームがきっと実現します。「集める」から「集まる」へ。PCからスマホへの変化の流れのなかで、リクルート「リボンモデル」が更新される日はきっと訪れるでしょう。

まとめ

今回は「ホットペッパーに勝つ方法はあるか?」をテーマに、「行動のポジションを確認する」「受動的な体験をデザインする」「つい触ってしまう『きっかけ』を考える」という3つのポイントから「ランチパスポート」を勝手にコンサルすることで、「行動モデル」の基礎的なデザイン手法を考えてきました。またリクルートに勝てるのか、「リボンモデル」の次に来るモデルについて考えました。

エアコンサルという初の試みはいかがでしたでしょうか? ここまでいろいろ考えながら書いてきて思うことは、リクルートはなかなかに手強いということです。「Airレジ」しかり、抑えるべきところをしっかり抑えています。しかしながら、スキがまったくないわけではありません。すべてをかけてリクルートに挑むスタートアップが登場し、「大逆転」が起こることを心待ちにしています。

最後に告知です。先日、イタリア芸人の佐々木カルパッチョさんのご紹介で、個人が株式会社のように擬似株式を発行することができるサービス「VALU」の代表である小川晃平さんとお話しする機会がありました。そこでVALUの思想的な背景を知り、完全に触発されました。いつか記事として書きたいと思います。この壮大な社会実験に参加するため、さっそくVALUをはじめました。よろしくお願いいたします。

では、また次回。

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