なぜディズニーは9割がバイトでも最高の顧客満足度を維持できるのか?

『9割がバイトでも最高のスタッフに育つ ディズニーの教え方』は50万部を突破したそうです。すごいですね。私も読みました。著者の福島文二郎さんはこう述べています。

「ディズニーランドで働いている人のうち、正社員は2000人程度。それに対して、アルバイトが1万8000人程度います。しかも、正社員の中には、バックオフィス業務を担当する人間もいますから、ゲストが直接顔を合わせるのは、ほぼ100%がアルバイトなんです。」(参考:中経出版「特集ページ」より)

2011年4月の顧客満足度調査によると「顧客期待/知覚品質/クチコミ」でNo.1、全体でも2位と高い顧客満足度を維持していることがわかっています。東京ディズニーリゾートに行ったことがある人ならば、そのサービスレベルの高さはよくご存知かと思います。(参考:サービス産業生産性協議会ニュースリリース「2010年度日本版顧客満足度指数の発表」

■なぜディズニーは9割がバイトでも最高の顧客満足度を維持できるのか?

ビジネス書や自己啓発書でも「ディズニー」は定番中の定番で、ディズニーテーマパークに存在する行動規準「SCSE」、すなわちSafety(安全)、Courtesy(礼儀正しさ)、Show(ショー)、Efficiency(効率)に基づく、スタッフのコーチングの話を書いた本はたくさん出版されています。カストーディアル・キャスト(清掃員)についての感動物語は有名ですね。こうした本が数年に一回、ベストセラーになるのもファンが多い証拠なのかもしれませんね。(参考:オリエンタルランドHP「行動規準SCSE」

しかしながら、ディズニーを真似て成功した話はそれほど多く聞きません。いくらディズニーのホスピタリティは「相手に対する主体的な思いやりだ」と言われても、なかなか行動にはうつせないものなのだと思います。それを実現する仕組みは何か? ビジネス書をいくら読んでもわからなかったのですが、ディズニーキャスト(アルバイト)募集サイトを見て「これか!」と思いましたのでNOTEに書きたいと思います。

(引用元:東京ディズニーリゾート キャスティングセンター「キャスト特典」ページの一部)

ディズニーにはファイブスタープログラムという表彰制度があります。同制度はファイブスターカードと呼ばれるカードを、上司が素晴らしいパフォーマンスをしていたキャスト(従業員)に手渡しますカード1枚で毎月抽選で非売品のノベルティーが当たるようになっており、5枚たまると年に数回行われる「ファイブスターパーティー」へ招待されるそうです。(資料を参考に記述しておりますが、もしディズニーリゾートのキャストの方がいらっしゃれば、現在でもこのインセンティブになっているのか教えて下さいませ)

さらに、キャスト同士がお互いのパフォーマンスをたたえ合うスピリット・オブ・東京ディズニーリゾート、長時間勤務を表彰するサービス・アワード・プログラムでは、上記にあるようなピン(バッジ)が贈呈されます。英語・中国語・韓国語でゲストサービスができるキャストにはランゲージピンというものあります。

こうした仕組みによりアルバイトであるキャストはさまざまな「フィードバック」を時間を置くことなく受けることができます。NOTEの読者の方なら「ピン」ときている方もいらっしゃるかもしれませんが、こうした仕組みはゲームの基本的な構造である「プレイ&フィードバック」のループ構造に似ています。カードやピンをもらえればもらえるほど、もう一枚カードを、もう一個ピンをもらおうと、よりホスピタリティのあるパフォーマンスをしようと心がけるようになるのです。(参考:「楽天レシピはなぜクックパッドに勝てないのか?」

また、バッジで達成感を可視化するのはゲーミフィケーションの定番テクニックでしたね。また、「ファイブスターパーティー」はいわゆる航空会社などのファーストクラス・ビジネスクラスの優先搭乗や空港ラウンジ(VIPルーム)にも似た「アクセス(Access)」の権利を与える形式のインセンティブとなっており、これもゲーミフィケーションにおける高度な動機づけのテクニックの一つでした。ひとまずここでは「ディズニー」がゲーミフィケーションかどうかは置いておきましょう。後ほど見解を述べます。(参考:「なぜゲーミフィケーションは効果的なのか?」

■公開から6か月で1000万件の累計ダウンロード数を突破した「LINE」は即レスが基本

「プレイ&フィードバック」においては、そのスピードの速さが特に重要です。たとえば、最近、私は「LINE」というアプリで家族との連絡のやり取りをするようになりました。

(引用元:「LINE(ライン)-無料通話・無料メールアプリ」

このサービスはベッキーのテレビCMで認知度を上げ、公開から6か月で1000万件の累計ダウンロード数(iPhone/Androidアプリ総計)を達成したそうです。(参考:ORICON STYLE「公開6ヶ月で1000万DL達成 『LINE』が週間1位に」

このアプリで「すごい!」と思ったのは「スタンプ」という機能です。「絵文字」に近いのですが、「スタンプ」のすごいところはそれを一つを送るだけで用が足りてしまう点です。しかも「スタンプ」は「絵文字」と違いメール本文とは切り離されて存在してます。つまり、「スタンプ」は押すとその「スタンプ」だけで相手に送信されるのです。

使ってみた感想は、コミュニケーションの取り方がメールやSMS(Short Message Service)とは圧倒的に異なると感じました。こちらがスタンプを一つ押せば、相手もスタンプ一つで素早く返ってくるため、基本的に即レスです。どんな言葉を返そうか悩む時間を必要としないのです。

Facebookを使う人が多くなったので、みなさん感じていることかもしれませんが、「いいね!(Like)」を押されるとうれしいものです。「いいね!」が速ければ速いほど、量が多ければ多いほどうれしいことでしょう。「いいね!」は相手のメッセージを「読んだよ」という意味で押すことも多く、わざわざメールで返すほどではないときにはとても便利です。フィードバックを送る敷居を極端に下げているという意味ではFacebookの「いいね!」も「LINE」の「スタンプ」も同じです。一方。Twitterもリツイートなどのフィードバックで相手が読んだかどうかを知ることができますが、読んだかどうかわからないのがTwitterの特徴でもあります。結局のところ、フィードバックの速度が速くて量が多いソーシャルメディアに人が集まるものなのかもしれませんね。(もっとも、Twitterも2011年11月のバージョンアップで「アクティビティ (activity)」が追加され、「@つながり」を見れば誰にフォローされたか、誰がツイートを「お気に入り」に入れたかがわかり、フィードバックの可視化が進化しました)

前置きが長くなりましたが、「ディズニー」における人材マネージメントの基本はフィードバックを速く、量を多く、目に見える形にすることにあるのだと思いますこれが、ディズニーの9割がバイトでも最高の顧客満足度を維持できる秘密の一つではないでしょうか。

■今トレンドとなっている「ゲーミフィケーション」は何が違うのか?

さて、「ディズニー」はゲーミフィケーションと呼んでもいいのか。結論から言えば、定義はありませんのでどちらでもよいと思います。「AKB48」はゲーミフィケーションなのではないか? スタンプカードはゲーミフィケーションなのだろうか? という議論と同じです。ポイントは、今さまざまな事例が出てきているトレンドワードとしての「ゲーミフィケーション」とどんな点で違うかを知ることでしょう。一つだけ考えてみたいと思います。それは「コンピュータが介在する」という点です。

「メールが来ないと不安」という人が若者に多いと言われていますが、理由を考えたことはありますか? 私見になりますが、もしかしたら「ゲーム」というメディアに親しむ世代「ジェネレーションG(「The Generation Game」の略=ゲーム世代)」だからなのかもしれません。なぜなら、「ゲーム」は人ではなく「コンピュータ」が相手をしてくれるメディアだからです。コンピュータ・ゲームはボタンを押せばコンピュータが何らかのフィードバックを返してくれます。大人気のアプリゲーム「おさわり探偵 なめこ栽培キット」で画面をさわれば、「なめこ」が収穫できるのといっしょです。

一方、メールであれば、相手である「人」が返してくれないと始まりません。テレビなどのマスメディアも当然ながらフィードバックがほとんどないメディアです。「ゲーム」に慣れ親しんだ世代にとって、何らかのフィードバックがすぐに返ってこないことは非常に気分の悪いことなのだと思います。「堪え性がない」としばしば指摘される所以です。

「コンピュータが介在する」という点について、ゲーミフィケーションと呼べる典型的な例で説明してみます。アディダスジャパンが2011年12月に発売した「miCoach CONNECT」です。

いわゆるランニングをサポートするアプリですが、センサーによって記録された心拍数や速度に応じて、その人に合った運動プログラムをデザインしてくれます。そのプログラムに応じて、スマートフォンのアプリ=コンピュータがユーザーを「コーチング」してくれるのです。コンピュータが常にフィードバックを返してくれることが、ランニングという行動を継続的なものとすることに非常に重要な役割を果てしています。(参考:日経経済新聞「人間が情報端末に、ヘルスケアの進化促す近未来探訪(1)センサーとクラウドで生活が変わる」

「プレイ&フィードバック」のフレームワークから見れば、ユーザーがプレイしたことに応じて、一定のルールをもってコンピュータがフィードバックを返すのがゲームでありゲーミフィケーションではないでしょうか。今、日本でもトレンドになりつつある「ゲーミフィケーション」についても、「コンピュータが介在する」かどうかの視点で見ると、ある一線が引けるのではないかと思います。しかしながら、「ディズニーはゲーミフィケーションだ!」「AKB48はゲーミフィケーションだ!」として議論することにも深い意味があると思っていますので、ぜひ考察を続けましょう。

■【告知】ゲーミフィケーションに関わる本の著者が一同に会す夜「ゲーミフィケーション・パーティナイ(Gamification Party Night)」イベント開催

私の本業は書籍の編集者です。ゲーミフィケーションについてNOTEをたくさん書いてきましたが、1月27日に発売となる『ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネスを変える』(Amazonへリンク、アフィリエイトではありません)という書籍で一つの形となりました。私の書いているゲーミフィケーションに関するNOTEのアイデアは、書籍の著者である国際大学GLOCOMの井上明人さんとの議論の中で生まれたものでもあります。今回の「ディズニー」の話も、あたかも自分が考えたように記述しておりますが、著作権は井上明人さんにあると考えてます。「ディズニー」の話は書籍の中でも、このNOTEの議論とは異なりますが、現在のゲーミフィケーション事例と比較しながら、さらに丁寧に深く掘り下げて議論されています。(もちろん井上明人さんはゲーム研究のプロフェッショナルですから!)

ここで告知ですが、その井上明人さんがゲーミフィケーションのUstreamイベントを開催します。2012年1月25日(水) 19:00~21:30に放送される予定です。

国際大学GLOCOMの井上明人さんの他、ジェイン・マクゴニガル『幸せな未来は「ゲーム」が創る』(早川書房)を翻訳し『シリアスゲーム』(東京電機大学出版局)などの著作がある東京大学特任助教の藤本徹さん、『デジタルゲームの教科書』(ソフトバンククリエイティブ)の株式会社グルーブシンク代表の松井悠さんといったゲーミフィケーションに関わる本の著者が一堂に会するイベントとなります。ゲームへの深い理解を持つ方々ばかりなので、私自身もとてもエキサイティングに待ち遠しく思っているイベントです。

Ustreamイベント詳細はこちらでご覧ください。

私が編集を担当しました書籍『ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネスを変える』(Amazonへリンク、アフィリエイトではありません)は、ゲーミフィケーションを使って新しいサービスを考えている方に向けて、またゲーミフィケーションとは何かを知りたい方に向けて、井上明人さんが数百時間という膨大な時間を費やして書き上げた本です。ゲーミフィケーションの可能性を信じている方々のお役に立てる本になったと思っております。この本を読んでいただいた方々が、社会やビジネスにおいて新しい価値を生むようなゲーミフィケーションのサービスや製品をデザインしていただけるようになれば、著者である井上明人さんにとって、また、編集者である私にとっても幸せなことです

最後に。私自身が「ゲーミフィケーション」に関連したイベントに登場する機会をいただいておりますが、基本的にはプロフェッショナルである井上明人さんに登場していただくべきだと考えております。もし、イベントでのプレゼンテーションをお願いするため、井上明人さんを紹介してほしいといったリクエストでしたら、喜んでご紹介いたしますので、Twitter(http://twitter.com/ro_mi)やFacebook(http://www.facebook.com/hiromi.kubota)などを通じてご連絡ください。よろしくお願いいたします。

P.S.

もし、書籍『ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネスを変える』を読んでいただいた方で読んだ感想などあれば、著者にお伝えさせていただきますので、FacebookやTwitterを通じて、ぜひお聞かせください。たのしみにしております。

(初出:2012/1/30「NOTE by Hiromi Kubota」

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