未来としての「LINE」

2012年8月13日に「LINE(ライン)」の「ホーム」「タイムライン」機能がiPhone版に対応したことで、どんなことが起こるのだろうとワクワクしてます。

最初に申し上げておくと「LINEはFacebookに勝てるのか?」「mixiはどうなるのか?」など、ネット上ではSNSの覇権争いに関する記事が多いですが、そこにはあまり興味がありません。もちろん「ダウンロード数が◯◯◯◯万人を超えた」「利用者数が◯億人に」とか見た目にはインパクトはあるのですが、株式公開したFacebookのマネタイズはこれからなわけですし、ビジネスパーソンとしては冷静に見ていればいいのではないでしょうか(参考:日本経済新聞「米フェイスブック、理念先行に投資家じれる「成長限界」説も」)。また、セキュリティやプライバシーを巡る話、また未成年者の利用についての議論も必要だと思いますが、あまり興味を持っていません。

もっと大きなトレンドとか、パラダイム・シフトが起きるかどうかを考えたいと思いました。私が「LINE」の何に注目しているのかと言いますと、(1)スタンプ(Stamp)、そして(2)影響力(Influence)の二つです。順番に考えていきましょう。

■「LINE」のスタンプはメイド・イン・ジャパン

まず、「(1)スタンプ」について。 NHN Japanの森川亮代表取締役社長のインタビューの一言が興味を引きました。

「スマートフォン上のサービスについては、フィーチャーフォンでiモードが成長した時と同じような変遷をたどるという仮説を立てていました。日本のコミュニケーションサービスでは絵文字やデコメ的なものがフィットするのではないかという仮説のもとにスタンプを出したところそれが当たりました」(週アスPlus「LINEが急速に伸びた理由をNHN森川代表に聞く」

「特に台湾ではスタンプのキャラクターがタレント並みの人気になっているようです。これは私の仮説ですが、象形文字である漢字を使うアジア人は、意味よりも見たままで表現するというコミュニケーションが文化的にあると考えています」(同上)

そもそも「LINE」というアプリ自体が携帯電話における”通話”や”SMS・MMS”のリプレイスですが、スマートフォンで絵文字・デコメまでを視野に入れたところはさすがだなぁと思っています。スタンプってほんとにすごい。

特にガラケー的絵文字・デコメからスマートフォンにバージョンアップするのにあたり”リアルタイム性”を取り入れたところ。以前のNOTE(「なぜディズニーは9割がバイトでも最高の顧客満足度を維持できるのか?」)で「LINE」について触れたことがあるのですが、スタンプは「メール本文=文字」とは切り離されており、押すとスタンプだけで相手に送信されます。”スタンプ”というネーミングどおりです。また、画面上に「既読」というステータスがさりげなく表示されるので、半ば強制的に即レスが求められます。mixiの足あと機能にも通じるメイド・イン・ジャパン的なアーキテクチャですよね。(mixiの「足あと」に関する考察は濱野智史『アーキテクチャの生態系』のp134あたりをご参照ください)

■人間は言語よりも感情が先立つ生き物

私は「LINE」をもっぱら夫婦のやり取りで使うことが多いのですが、ビックリするのはメールの文字を打つよりも先に、今の感情に近いスタンプを探す自分がいることです。同じ経験をされていらっしゃる方がいらっしゃるのではないでしょうか。

言い換えれば、そもそも人間は言語よりも感情が先立つ生き物であり、ソーシャルメディアに”リアルタイム性”が求められる今、その発信は感情的な言語でされることが多いのかもしれません。このことから、感情が先走ったTwitterのツイート(言語化)により、炎上する人が多いことも納得がいきます。

「Twitterなどのソーシャルメディアが人を暴力的にしている」という議論があるとしたらそれはたぶんナンセンスで、むしろソーシャルメディアがリアルタイム化しているからこそ言語よりも感情が先立ち、その感情的な言葉が炎上を起こしていることが多いように思われます。むしろ、炎上などと呼ばずに「ツイートは感情が先走るものだ」という理解がもっと広まるといいのかもしれないですね。

■キャラクターを介したコミュニケーション

さて、スタンプのようなビジュアルによるコミュニケーションは言うまでもなく大きなトレンドです。キーワードを挙げれば、「Pinterest(ピンタレスト)」「FacebookのTimeline(タイムライン)」「インフォグラフィック」「データジャーナリズム」などです。ここらへんも詳しく書きたいところですが長くなるので、またの機会にします。

ビジュアルの中でも、今回は特に”キャラクターを介したコミュニケーション”という点には注目したいと思います。日本人にとってはマンガ・アニメ・ゆるキャラなど、日常的に馴染みがありすぎてわからないことなのだと思いますが、キャラクターの人格が人間に影響力を持つ点は、メイド・イン・ジャパンをグローバルへ輸出する際には重要なフレームワークになるのではないかと予感しています。たとえば、下記の図で工事現場の標識を日本と米国で比べてみましょう。なぜ、工事中だということを知らせるのにキャラクターが必要なのでしょうか。

左「Photo:Japan Signs: Sewerage Under Construction By zonjineko」右「Photo:Day 227 – Road construction By Karin Beil」

日本人のマンガ文化、恐るべし。「LINE」がアジア圏を中心に世界へ広がっているなどビジネスがフラット化する中、このキャラクターを介した”人間への影響力”はもっと考察を深める必要があると思います。もちろん、「LINE」の場合はそのキャラクターの裏に生身の人間がいるからこそ円滑に機能しているわけですが、日清食品チキンラーメンのひよこちゃんにしてもローソンのあきこちゃんにしても、企業がキャラクターを介してコミュニケーションをとる事例の多さは、日本が世界でいちばんなのではないでしょうか。ライバルの韓国「カカオトーク」との違いはスタンプの”リアルタイム性”と”かわいさ”などの日本的なものにいちばんよく出ていると思います。

もちろん、有名なところではTwitterがつながらないときに出てくる「くじら(Fail Whale)」などがいますよね。ただ文字だけで伝えられるよりも、くじらだとなぜか納得してしまう。不思議です。

こうしたキャラクターを介した人間への影響力を考察した例としては、スタンフォード大学でCaptology(Computer as Persuasive Technologyの略)を研究しているB.J.フォッグがいます。フォッグは著書『実験心理学が教える人を動かすテクノロジ』のなかで、コンピュータのなかのキャラクターが身体的な特徴や心理など5つのソーシャル・キュー(社交的な合図)を持つことで、人はより説得されることを実験により明らかにしています。ちなみにフォッグが研究の転機になったのは、1996年にバンダイから発売された「たまごっち」が一世を風靡したときだったそうです。ここでもメイド・イン・ジャパン。すごいです。(参考: affective design「An Interview with Dr. BJ Fogg – Pt.1」)。

■インターネットとマスメディアは何が違うのか?

ここまでは「LINE」のスタンプがメイド・イン・ジャパンとしておもしろいという話でしたが、ここで次の「(2)影響力(Influence)」の話題に移りたいと思います。

すでに語られていることですが、FacebookやTwitter、そしてmixiやLINEといったソーシャルメディアは今までのTV・新聞・雑誌・ラジオといったマスメディアとは全く異なるものです。ソーシャルメディアは基本的には自らも発信する能動的なメディアであり(Read Onlyの人もいますが)、受動的に内容を受け取るマスメディアとは性質が異なります。ソーシャルメディアは基本的に双方向であるため、その隙間に広告を入れてもなかなか人に”影響”を与えることができていないのです。

一方、マスメディアでは人は受動的に内容を受け取るため、人の購買行動に影響力を持つことができました。だからこそ、広告クライアントはそのメディアの枠を買って自社商品の宣伝をします。インターネットも登場してばかりの頃は、ポータルサイトのバナー広告などが代表例ですが、従来のマスメディアと同じ構造を持っていました。

ところが、インターネットはコンテンツを見る・読むという意味では受動的でありつつも、ハイパーリンクでつながっている構造であったため、ユーザーは能動的にクリック(行動)しながらコンテンツを探すという二重の構造を持っていました。そこから、インターネットならではの広告形態が生み出されていきます。

■Googleはメディアではないのに広告で莫大な収益を得た

それをいちばんうまく利用したのがGoogleです。ユーザーがたどり着きたいコンテンツへのアクセスを、ユーザーに「キーワード入力→検索」という行動を通して提供しています。Googleを”検索メディア”と呼ぶ人はあまりいません。なぜなら、Googleは” 影響力”という観点ではそもそも議論できない能動的なアーキテクチャだからです。検索エンジンでユーザーが「キーワード入力」をしている時点で、すでにその前に何らかの”影響”を受けているずだからです。消費者の購買意思決定プロセスを書くとこのようになります。(参考:青木幸弘ほか『消費者行動論』

たとえば、テレビで「毎日寝るベッドのマットレスは洗えない。だから除菌ができるP&Gの消臭剤ファブリーズ」というCMが流れたとします。テレビを見ていた人が「そうね、マットレスは洗えないわね」と思った時点で、このCMは消費者の「問題認識」に”影響”を与えているということです。次の「情報探索」に使われるものの一つがGoogleなど検索エンジンだということです。

つまり、Googleのリスティング広告(検索連動型広告)における広告クライアントは、消費者が「情報探索」する時点の「選択肢」を提供することにお金を支払っているのであり、消費者に「問題認識」を与える”影響力”にお金を支払っているわけではありません。それにもかかわらず、Googleはその収益のほとんどを広告からもたらしている点、世界一美しいビジネスモデルだと思います。

消費者の「選択肢」の上位にもともと入っている広告クライアントのなかには、検索エンジンのリスティング広告をやめるところもあるようです(参考:通販新聞「ブックオフオンライン、検索広告廃し利益10倍に、商品値下げで購入率増」)。宣伝を担当されている方は「自社ページの検索順位」以外にも「自社の商品はユーザーの選択肢の何番目にあるのか」という視点でリスティング広告を考えるとよいのだと思います。

■LINE公式アカウントはメールマガジンに似ている

話がそれましたが、Facebookがマネタイズに苦労していることからもわかる通り、双方向であるソーシャルメディアを広告メディアとして捉えることには限界があるのかもしれません。「LINE」が席巻しているスマートフォンなどのモバイルは、PCに比べてさらに物理的に広告スペースが狭いため、広告メディアとして人の購買行動に”影響力”を持つことは非常に難しいと思います。Facebookがモバイルで「記事形式のスポンサー広告」を試していますが、やはりユーザーの使い勝手を考えると広告スペースに限界があります。(参考:TechCrunch「Facebookのモバイル広告は有効だった」

広告スペースに限界がある点はLINE公式アカウントも同じです。企業アカウントなどLINE公式アカウントをフォロー(友だちに追加)してみるとよくわかるのですが、今のところメールマガジンとほぼ同様の仕組みです。その点については、いつも日経流通新聞(日経MJ)で連載をたのしみにしている通販コンサルタント村山らむねさんの記事でも指摘されています。

「今は10社に足らない公式アカウント。初期費用が200万、月額利用料は150万円からに設定されている。最初の20社くらいは投資以上に大きなリターンを手にするだろう。100社近くになると、公式アカウントに複数登録した人は、通知設定をオフにする可能性が高くなるはずだ」(日本経済新聞「企業の導入相次ぐライン、快適さ失えば着信「オフ」に」

現状の「LINE」はネットワークがゆえに先行者優位の市場になっています。LINE公式アカウントにいちばん最初に参加したローソンや日本コカ・コーラなどが友だち数も多くメリットを享受するのは、ネットワーク科学的な「優先的選択」を考えても当然のことです。まあ、それでも「LINE」のスタンプショップは絶好調で、2012年7月中旬までのスタンプ販売の売り上げが約5億円に達した点、スタンプ販売できちんと収益を上げているのだからすごいの一言ですが(参考:ロイター「インタビュー:「LINE」、ドコモなどと提携の可能性=森川社長」)。

■影響力をユーザーに委ねる

「じゃあ、LINEをマネタイズするにはどうしたらいいんだ」ということの一つ目の回答が、先日2012年7月3日に発表された新戦略の一つ「LINE Channel」でした。ひとことで言うならばスマートフォンのガラケー有料コンテンツビジネス化です。「ガラケー=iモード → スマートフォン=LINE Channel」の構図です。

実際に発表された「LINE Channel」とガラケー時代の有料コンテンツ・ビジネスとの共通点は多く、「絵文字・デコメ=スタンプ・LINE Card」「着うた・着メロ=サウンドショップ」「ケータイ小説=LINEトークノベル」「ゲーム・占い・クーポン=そのまんま」って感じです。(参考:ITpro「LINEプラットフォーム化の威力とiモード分離という思考実験」

でも、せっかく「ホーム」「タイムライン」機能が追加されたので、もう一歩先を考えたいですよね。以前このNOTEでも、LINEと同じくNHN Japanが提供する「NAVERまとめ」についての考察(「NAVERまとめ研究」)を書きましたが、私は”影響力をユーザーに委ねる”ということが「LINE」でも起こらないだろうかと妄想しています。つまり、企業が直接に情報を発信するのではなく、「ユーザーが自発的に発信したくなるようなことを、企業がLINEの中で効率的に提供できないのだろうか」ということです。GPS、カメラ、タッチスクリーン、人間のいちばん近くにあるデバイスであるなどスマートフォンの特徴を活かせば何かできそうな気がします。

日清食品のひよこちゃんスタンプが1日に400万件以上使われている(参考:ITpro「LINE公式アカウント国内36事例まとめ&ランキング」)事実を考えると、ユーザーが発信したくなる何かを考えていくのが自然です。といっても、それはNHN Japanが考えていくことですので、ここらへんで深入りはやめましょう。

このNOTEでは「LINE」を(1)スタンプと(2)影響力という二つの視点から見てきましたが、考察は以上です。

ついに「LINE」のソーシャルネットワーク化が進行する中、いよいよモバイルにおけるソーシャルネットワークのフロンティアでどんなことが起こるのだろうとワクワクしている今日この頃です。

告知など

このNOTEを過去に読んでいただいたことがある方はご存じかもしれませんが、テーマとしてはこの一年「ゲーミフィケーション」を追いかけてきました(「なぜゲーミフィケーションは効果的なのか?」など)。その結果、書籍『ゲーミフィケーション』『ゲームにすればうまくいく』などの編集を担当し、また「ゲーミフィケーションカンファレンス」などの企画にも参加しました。そして今、興味を持っていることは、ソーシャルネットワークのクラスターのなかでどのように”感情的な気持ちの盛り上がり(祭り?)”をつくっていくかの方法論であり、ソーシャルメディアが個人の”影響力”を増大させている大きなトレンドです。このNOTEはこれらの興味から書きました。

オンライン上のソーシャルネットワークが普及した現在、その”影響力”の主役が企業やメディアから個人に移っています。一時期、「評価経済」という言葉に注目が集まりましたが、「お金じゃなくて評価だ」と言うよりも「個人の影響力が可視化されている」という言葉の方がわかりやすいのかなと考えてます。「権力/影響力=Clout」という意味の英単語を文字ったオンライン上のソーシャルな影響力を測る有名なサービスに「Klout(クラウト)」がありますが、その得点(Kloutスコア)に応じて得点の高い人は、企業やブランドから航空券や宿泊先のホテルでの特典を受けられます(参考:SankeiBiz「一般個人の影響力 数値化に成功」)。個人の影響力が誰にでも換金可能なものになってきていることに驚くばかりです。その意味から、ソーシャルメディアにおいては”評価”という言葉よりも”影響力”と言い換える方がフィットすると思うのですがいかがでしょうか。

そして、私は出版社で編集という仕事をしていますが、主役は雑誌などのメディアではなく、ソーシャルネットワークで”影響力”を手にしつつある著者に移っていくのではないかと考えています(もちろんソーシャルネットワークに参加してない著者もいます)。直近で参加した仕事の一つに2012年8月13日にオープンした「ジレンマ+」というWEBサイトがあります。このサイトはまだベータ版の位置付けですが、このような前提の上で”どうすれば著者の影響力を増大していけるのか”という視点コンセプトに基本設計をしています。

このサイトの中で「なぜフェイスブックで3,000人友達がいる人は成功できないのか?」というタイトルで、ノマドワークスタイルが注目を浴びている安藤美冬さんと、ネットワーク科学の分野で『私たちはどうつながっているのか』など多数の著作を持つ増田直紀さんの対談を企画&ライティングの担当をいたしました。全5回で配信予定です。ネットワーク科学はまじでおもしろいです。ぜひご覧ください。

ネットワーク科学といえば、ポール・アダムス『ウェブはグループで進化する』もおもしろい本でした。読んだきっかけはTechWave編集長の湯川鶴章さんのこの記事です。著者は Google+をつくりいまFacebookいる人で、ネットワーク科学・脳科学・行動経済学・社会心理学など、いまITやメディアで必要な学問が簡潔にまとまっていました(注:物語性は全くありません)。誰にお願いされているわけでも、アフィリエイトでもありませんが、このNOTEみたいな長い文章を読める人にはオススメしてます(笑)。

ご連絡や感想などははいつもどおりTwitter(http://twitter.com/ro_mi)やFacebook(http://www.facebook.com/hiromi.kubota)などを通じてお知らせください。事実誤認などあれば指摘していただけるとたいへんに助かります。

ではまた。

(初出:2012/8/15「NOTE by Hiromi Kubota」

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