ひろゆき”切り抜き動画”に学ぶ「1%の努力」の真意

YouTuberとして大ブレイク中のひろゆきさん。まもなくチャンネル登録者数は100万人です(2021年6月現在)。著書『1%の努力』(ダイヤモンド社)は発売から1年以上経つのに勢いが衰えず、20万部突破だそうです。おめでとうございます。

若い世代(15〜24歳・男女)がいちばん信頼・参考にしているインフルエンサー・有名人では、1位のHIKAKIN(ヒカキン)さん、3位の渡辺直美さんと松本人志さん(ダウンタウン)に挟まれ、ひろゆき(西村博之)さんは堂々の2位という「マジっすか」な結果に(LINEリサーチ)。

もはや、彼が日本最大級の匿名掲示板「2ちゃんねる」の開設者であることを知っている人間は、中高年の皆様ということになってしまうのでしょうか。

話題なのが”切り抜き動画”です。ABEMA 変わる報道番組#アベプラで特集され「切り抜き動画って、そんなに儲かるのか」と脚光を浴びました。

同番組によれば、1ヶ月の再生回数は2億4000万回以上、このペースで再生され続ければ、去年で最も多く再生されたYouTuberの約3倍になるそうです。

躍進のきっかけとなった”切り抜き動画”を調べてみると、これがめちゃくちゃ面白い。まったく新しい「儲けの仕組み」であることはもちろん、未来のコンテンツビジネスの大変動を予感させます。

さらに言えば、ひろゆきが「1%の努力で変えられるんだ」と主張する”真意”が見えてきました。これはぜひ伝えたい。そこで、ひさびさに記事を書いてみます。

「切り抜き動画」儲けのカラクリ

切り抜き動画とは、元の動画から一部を切り抜いて編集された動画です。投稿主ではなく、第三者がサムネイルやテロップを加えて制作されます。短尺の動画も多く「見やすい」「わかりやすい」と人気です。

ひろゆきの場合、YouTubeで2時間程度のライブ配信を行っており、元の動画はこちらの例のように1時間46分と長いものです。再生回数は約47万回です(2021年6月現在)。

【ひろゆき】不味いカレーを作るのは難しい。 Monoprix Blondeを呑みながら。2021/01/08 V06

これをいいところだけ切り抜いて、サムネイル画像やテロップを入れて1分44秒に編集された”切り抜き動画”がこちらです。再生回数は約204万回(2021年6月現在)。

【ひろゆき/切り抜き】現役高校生でも容赦なく斬るひろゆき

「見てみたい」とつい思ってしまうように編集されていますよね。ひろゆきの大成功もあり、ヒカル(438万人)、メンタリスト DaiGo(240万人)、武井壮(23.1万人)など切り抜き動画をOK・黙認する有名人が続々と増えています。

クローズアップされたのが「僕、何にもしなくても、頑張って編集してる人のおかげでチャリンチャリン入るって状態なんで」という、ひろゆきの”切り抜き動画”職人に対する発言です。

東スポWebは「ひろゆき氏 “パクられ動画”で収益増を明かす」と書きましたが、実はひろゆきの”切り抜き動画”は著作権的にアウトな状態でパクられているわけではありません。ひろゆき自身がYouTubeでの切り抜きOKと認めているのです。

ひろゆきが配信した動画が素材となり、578件のひろゆき”切り抜き動画”チャンネルがあります(同番組調べ)。切り抜き動画を量産できる理由は「ひろゆきデータベース」の存在です。職人たちが簡単に動画を制作できる環境が整っています。

ひろゆきの場合、切り抜き動画をつくるのは自由、収益化(登録者1,000人以上、再生時間4,000時間以上)できる時点で連絡をください、というルールで運用されているそうです。

同番組に出演していた、「ひろゆけ【ひろゆき切り抜き】」(16.2万人)は、編集やサムネイル作成などを4、5人にアウトソーシングしており、1日の実働時間は1時間(!?)とのこと。

ひろゆけ氏は外注に1人20-30万円を払っており、ひろゆきご本人に「それが払えるぐらいの収益が入っているということでいいんですね?」と聞かれ、「・・・そうですね」と答えていました。ということは月収は数百万になる計算です

有名人がこぞって”切り抜き動画”に参入する理由

一方で、YouTubeからの広告収益について、「”切り抜き動画”職人」と「ひろゆき本人」との配分率は50:50とのこと。ひろゆき本人が配分率を決めているそうです。

ひろゆきの切り抜き動画チャンネルは600近くあり、「ひろゆきのマインド【#ひろゆき #hiroyuki】《切り抜き》」(20.3万人)、「ひろゆきの部屋【切り抜き】」(17.2万人)、「せまゆき」(16.2万人)など人気チャンネルがいくつもある

そう考えると、ひろゆき本人の収入は一体いくらになるのでしょうか……。切り抜き動画は元の動画の二次利用に過ぎないわけで、本人が何もしなくても、ガッポリ儲かる。有名人がこぞって参入する理由がよくわかります。

でも、ひろゆきは「今から自分の切り抜き動画に参入しても遅いから、絶対にやめとけ」と正直に言ってくれています。ひろゆきの切り抜き動画は明らかな過当競争で、今からではまったく儲からないとのことです。

なので「とにかくラクして儲けたい」という方は、切り抜き動画を許可している有名人のブルーオーシャン(競争相手の少ない市場)を探してみてはいかがでしょうか。

ひろゆき”切り抜き動画”から学ぶべき3つのこと

さて、ここからが本題です。ビジネスパーソンは、ひろゆき”切り抜き動画”から何を学ぶべきなのでしょうか? 私は次の3つだと思います。

  1. YouTuberのゲームチェンジが始まる
  2. 「ストックとフロー」の使い分け
  3. プラットフォームとしてのYouTube最強説

①YouTuberのゲームチェンジが始まる

ひろゆき”切り抜き動画”と、これまでのYouTuberとを比べると、次のように整理できます。

これまでのYouTuberは、チャンネル登録してくれたファンに向けて”ほぼ毎日”動画を投稿し、”重大発表”などのネタで話題性を出し「急上昇動画」に選ばれることを目指しました。

しかし、ひろゆきは2時間ほどのQ&Aライブ配信を基本とし、課金(スーパーチャット)で収入を得ることに加えて、さらに切り抜き動画で50%の広告収入があります。

決定的な違いは、切り抜き動画の主戦場が「関連動画」枠であり、そこに山ほど”ひろゆき切り抜き動画”が並ぶことです。

ひろゆきの動画を一度でも見たユーザーには、これでもかと言わんばかりの切り抜き動画が並び、しかも3分、5分など短尺が多く、暇つぶしコンテンツとして消費しやすい

一方で、これまでのYouTuberは広告での収益を最大化するため、より多くの広告が入れられる8分以上の動画を投稿せざるを得ません(ミッドロール・ポストロール広告のため)。ここにイノベーションのジレンマが生じます。

結論を言えば、切り抜き動画の登場でYouTuberの競争ルールが一変し、ゲームチェンジが始まったということです。勝ちパターンが変わったからこそ、ヒカルやメンタリスト DaiGoといった戦略性を持ったYouTuberがすぐに動きました。

DaiGoの切り抜きチャンネル参加者を募集します

超過酷な”ほぼ毎日”の動画投稿により、すでにメンタルをやられたYouTuberが続出中です。潮目が大きく変わるタイミングに差し掛かっているのではないでしょうか。

②「ストックとフロー」の使い分け

そんなのは「ひろゆきの動画しか成立しない」と思いましたか? たしかに、”切り抜き動画”は、タレントイメージをコントロールしたい芸能事務所にはむずかしい手法です。

編集により、意図的に煽る動画に仕立てられて炎上したら、ひとたまりもありません。CMなど守るものがある芸能人には、とても真似はできません。「動画はウソをつく」と専門家も指摘しています。

しかし裏を返せば、守るべきものがない人にとってはチャンスです。芸能人の大量参入に脅威を感じていたYouTuberこそ、検討すべき手法です。

では、どういうYouTuberが向いているのでしょうか? ポイントは、動画コンテンツの「フローとストック」の使い分けです。次のように整理できます。

フローとストックを使い分けるヒントは、ひろゆきと同じようにライブと切り抜き動画を組み合わせて成功している人たちにありました。バーチャルYouTuber(VTuber)です。

VTuber業界のメインストリームで活躍する「にじさんじ」(運営:いちから株式会社)や「ホロライブ」(運営:カバー株式会社)といった事務所は、ライブ配信で大成功した言われています。

COCO IS BACK!!

2020年に最もスパチャをもらったのはVtuberの桐生ココ(115万人)で、総額は約1億6000万円報告されており、スパチャ獲得ランキングの上位はVTuberが占めています。切り抜き動画も、「すし [ホロライブ/Vtuber 切り抜き] ※英語」(17万人)、「Sashimi / Hololive & VTuber Clips」(16.5万人)など人気チャンネルも多く存在します。

ライブ配信にファンが集まりスパチャが投じられ、さらに切り抜き動画も見られる。Vtuberから学べることは「フローとストック」を両立させるためにはキャラクター性の強さが重要だということです。ひろゆきがエヴァに乗る二次創作がバズるのも、そのキャラクター性の強さゆえでしょう。

切り抜き動画という競合が増えれば増えるほど、YouTubeの1再生あたりの広告単価が下がり、再生回数も奪われます。もし、あなたが自身のキャラクター性に強みがあると感じられるなら、このゲームチェンジの波に乗るべきです。

③プラットフォームとしてのYouTube最強説

そもそも”切り抜き動画”が成立するのは、今のところYouTubeだけです。すでに解説が多くなされているとおり、Content ID」という著作物を検出する仕組みがYouTubeに実装されているので、著作権者が収益を得られるようになりました。

「Content ID」は、権利物(音源・映像)を事前に登録することで、権利者が次の3つのオプションを得られる仕組みです。

  1. マネタイズ:動画は公開のまま、広告が挿入され、その広告収入は権利者に分配
  2. トラック:動画は公開のまま当該動画にかかる各種情報を権利者は取得可能
  3. ブロック:動画は非公開となる

ひろゆきは「1. マネタイズ」を選び、広告収入の分配を受けています。同じく「1. マネタイズ」で大きな収益を生んだ有名事例は、2016年に大ヒットしたピコ太郎「PPAP」です。

PPAP(Pen-Pineapple-Apple-Pen Official)ペンパイナッポーアッポーペン/PIKOTARO(ピコ太郎)

大流行した当時、PPAPの音源を使った動画が大量につくられましたが、「Content ID」によりマネジメント会社のエイベックス、権利者のピコ太郎に相当な金額の収益が分配されたそうです。

音楽業界は先に「Content ID」による恩恵を受けており、ようやく映像業界にもティッピングポイントがやってきたというわけです。 

YouTube(Google)はこれまで「Content ID」の技術に1億ドル(約110億円)以上を投資してきました。アップロードされた動画を照合して、瞬時に検出する技術を開発できるのは、世界でも同社ぐらいに思えます。動画プラットフォームとしてのYouTubeは世界最強です。

以前、ライバーの考察記事を掲載しましたが、「ライブ配信(元素材)+切り抜き動画(二次利用)」という明らかなゲームチェンジが起こりました。今いちばん危機感を覚えるべきは、人気アイドルやアーティストなど芸能人のライブ配信を中心に展開しているライブ配信アプリの事業者なのかもしれません。

守るべきものがないアイドルや芸人は、意外にたくさんいます。もっと言えば、守るべきものがあるアイドル、たとえば私が好きだった「欅坂46」にだって推しのまとめ動画が山ほどあります。

ちゃんとビジネスとして成立するわけですから、“切り抜き動画”への参入が増えても、まったくおかしくない状況です。

注意点としては、「Content ID」の運用はYouTubeからその権限を与えられた事業者しか行うことができません。事務所から離脱するYouTuberが相次ぐ中、今さら所属のメリットが出てしまったのは皮肉な話ですね。

「1%の努力」の真意

ひろゆきの切り抜き動画で大成功した前述の「ひろゆけ」さんは、実はVTuberの切り抜き動画を制作していました。しかし、すでにVTuberの切り抜き動画は寡占状態だったため、ひろゆきの切り抜き動画にシフトしたと説明し、次のように語っていました。

VTuberでは勝てないと思った。ひろゆきさんの切り抜き動画は、知名度が他の配信者に比べて高いし、やり始めたら儲かるだろうと確信を持って始めた。去年から始めてそのままやっている

今さら、ひろゆきの切り抜き動画を始めるのは、ご本人が言うとおりバカげています。

しかし、たとえば「切り抜き動画の勝ちパターンは”キャラクター性”なのではないか?」と仮説を立てたら、どうでしょうか。あるいは「”華麗なプレイ”で目が離せなくなるスポーツはダイジェスト動画向きだから、eスポーツやゲーム実況の切り抜き動画がマッチするはずだ」と考える人もいるでしょう。

切り抜き動画を許可したYouTuberの中に、あなたのお眼鏡にかなう人がいるならば、それが始めるのによいタイミングなのかもしれません。

最後に、ひろゆき『1%の努力』(ダイヤモンド社)からの引用です(太字は筆者)。

仮想通貨の例でいうと、みんなが怪しんでいるときに張っていた人が勝ち抜けて、儲かっている人をマネして後追いした人は儲からなかった。これは、大体のビジネスでも似ている部分がある。儲かるとわかった時点では遅い。逆に、儲かってなさそうで、誰もやっていないところにこそ、チャンスが転がっていたりする。そこに賭けてみるのがいい。一か八か全財産を賭けるのは勧めないが、失敗しても痛くない程度に張っておくのはいいだろう。

イチローさんが「努力を努力だと思ってる時点で、好きでやってるやつには勝てないよ」と言っていたが、僕もそれは正しいと思う。(中略)好きではないものを強要されると、人はそれを努力と感じてしまう。僕が映画を好きで観ているのは、努力だと思ってないし、好きでやっているから、それを圧倒的な努力で映画を観ていることになったら、それは逆に、映画が嫌いなことになってしまう。そうなると、映画が好きな人には勝てない。

この本には「誰もやっていないところにこそ、チャンスが転がっている」「好きではないものを強要されると、人はそれを努力と感じてしまう」など心に響くコトバがたくさんありました。

ひろゆきはお酒を飲みながら、きっと好きでライブ配信してるし、嫌になったらすぐやめるのだろうと思います。まさに有言実行の人です。

1%の努力』を読み、キャラがわかったおかげで、ひろゆきに若い世代が信頼を寄せる気持ちが理解できました。そして私のYouTubeの関連動画には、ひろゆきの切り抜き動画があふれています。

みなさんが努力だと感じることなく没頭できる時間、好きで好きで仕方がないことは何でしょうか?

あとがき

1年3ヶ月ぶりに記事を書いてみましたが、楽しんでいただけたでしょうか。そもそも私はいろんなことを調べて書くことが好きですし、本を読むのも好きです。思い返せば、これが「1%の努力」なのかもしれません。『1%の努力』は面白い本なので、これを機にぜひ読んでみてください。

以下は、これまで一度でもお会いしたことのある皆様へ向けた”あとがき”です。

私事のご報告になりますが、2021年5月末をもって暗号資産・ブロックチェーンWebメディア「CoinDesk Japan」のフルタイム編集者を外れ、外部参加の「コントリビューター」という役割に変わりました。

今後はプロジェクト・業務ベースでcoindesk JAPANに従事いたします。創業の時期をいっしょに過ごしたN.Avenueのみなさまには「本当にありがとう」の気持ちでいっぱいです。

2年超もの長きにわたって仮想通貨とブロックチェーンを追いかけたわけですが、この領域に対する自分なりの見通しが立てられるようになり、ひと区切りがつきました。2018年に書いた「10分でわかるビットコインの本質」「ブロックチェーンの「トラストレス」とは?」「トークンエコノミーの基礎知識」などの記事から始まった旅路でしたが、その”まとめ”はいずれKOMUGIに書きます。

一方で、あまりに仮想通貨とブロックチェーンだけに没頭したために、「編集者」というアイデンティティが薄れてきたと感じていました。そこで、もう一度、編集者という原点に立ち返りたいと思いました。

2021年6月以降は、編集者としての可能性を広げる「複業」にチャレンジします。柱は3つあります。

1つ目は、アカツキEDGE-LABでの活動です。研究員として、主に投資や新規事業に関するリサーチ業務を担当します。編集者が必要と声をかけていただいたCEOの香田さんには感謝しかなく、これまでのブロックチェーンやNFTに関する知見を投資や新規事業に活かしたいと思います。

2つ目は、経営者の顧問編集者です。「何それ?」と絶対に言われると思いましたので、先に「顧問編集者とは?」という記事を用意しました。興味があればお読みください。顧問編集者の先輩にはWORDSの竹村さんがいます。「誰もやっていないところにこそ、チャンスがある」という言葉を信じて、編集の仕事を楽しもうと思っています。無理な売り込みはせず、いただいた仕事を一つひとつ丁寧にアウトプットして、ゆっくりと着実な実績を積んでいこうと考えています。

3つ目は、KOMUGIです。何といっても書くことは好きなので、自分の面白いと思ったことは発信しようと思います。更新回数が少ないのにもかかわらず、いまだに「KOMUGIを読んでました」と言われることがあります。「ビジネスに役立つインサイトがありました」と感想をいただくなど、好きなことで感謝されるのは本当にありがたいことです。本の執筆のお話もいただいており、こちらも全力で応えたいと思っています。もし発信に興味を持っていただけるようなら、コムギのTwitterをフォローいただけるとうれしいです。

以上、退職エントリでした。

ではまた次回。