食べログ化する日本

「食べログの研究―レビューサイトがもたらした食文化と都市の風景」を読んでいたときに、はっとしたことが一つありました。それは「(食べログでは)コストパフォーマンスが高いレストランがランキングの上位を占める傾向がある」という指摘です。

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『PLANETS vol.8』より)

この記事は「dancyu」や「Hanako」といった雑誌文化が築き上げてきた食文化を、クチコミサイトである「食べログ」がどのように塗り替えてしまったかを解説する内容で、正面から分析されることの少ない「食べログ」を深く知れる、とても面白いものでした。

カカクコムの発表によれば、2012年12月末現在、「食べログ」の総ページビューは約8億7,750万PV/月、月間利用者数が約4,095万人/月(内訳=PC:2,285万人、スマートフォン:1,518万人、フィーチャーフォン:292万人)というメガサイトです。使ったことがないという人の方が珍しくなるほどの利用者数ですね。

■クラウドソーシング的に5段階の星の数で評価する

 “コストパフォーマンスが高いレストランの評価が高い”ということに、なぜはっとしたかといえば、それがユーザーでもある自分自身の実感に近いものだったからです。たしかに、食べログで3.5〜4.0ぐらいの高評価の店はコストパフォーマンスも良いことが多いと思います(4.0以上は高級店が多いです)。

「なんでだろう」とあまり深く考えたことがなかったのですが、よく見れば食べログの評価は「料理・味」「サービス」「雰囲気」「コストパフォーマンス(CP)」「酒・ドリンク」の5項目で評価されています。

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コスパが明確に食べログでの評価項目となっているからこそ、レビュアーもコスパをきちんと評価しようという文化が育ったともいえますよね。ただし、「★」は不特定多数のレビュアーの単純平均ではなく、ヘビーユーザー(食通度合いの高い)の採点が大きく影響する独自のアルゴリズムがあるようです。

一方で、レストランを星で格付けする元祖といえば「ミシュランガイド」です。調査員がまわって「1つ星=その分野で特に美味しい料理」「2つ星=極めて美味であり遠回りをしてでも訪れる価値がある料理」「3つ星=それを味わうために旅行する価値がある卓越した料理」ということで、ウェブにおけるレビューの概念とは歴史も思想も文化も違う感じです。「ミシュランの星付きレストランで食べる」というのは特別感が漂いますね。一応、コストパフォーマンスが高い店に付く「ビブグルマン」というキャラクターのマークはあるらしいのですが、やっぱり普段使いじゃない感じです。っていうかビブグルマンって何だ。

で、日本には雑誌文化があったわけですが、評価基準は「dancyu」「Hanako」など雑誌に載った(or 載らない)しかなく、その基準も編集者が決めるので曖昧なことが多いです。(「おとなの週末」は覆面調査で結構詳細にランク付けしていた気もしますが、これも編集者が決めているのでしょうか……)

大仰に言えば不特定多数で「料理・味」「サービス」「雰囲気」「コストパフォーマンス(CP)」「酒・ドリンク」をクラウドソーシング的に5段階の星の数で評価する=数値化するという試みは、かつて食文化が体験したことがない現象です。いまさらながら、このことが面白いなと思った理由は“人間の主観的な認知を星の数に置き換えて記述する”という試みに思えたからです。言い換えれば“直感を可視化する”ということです。

■そもそも“直感”とは何でしょうか?

「直感」については、2012年11月刊行の、心理学者でありながら2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』がわかりやすい説明をしてくれていますので、参照したいと思います。

カーネマンは同書のなかで、直感的で感情的な「速い(ファストな)思考=システム1」と、意識的で論理的な「遅い(スローな)思考=システム2」の比喩をたくみに使いながら、人間の直感(=システム1)がいかに優れていながら間違うかについて詳細に書いています。たとえば下記の簡単な問題に答えてみてください。

 バットとボールは合わせて1ドル10セントです。

 バットはボールより1ドル高いです。

 では、ボールはいくらでしょう? (上巻p.66より)

直感にしたがえば答えは「10セント」です。「システム1」は記憶に蓄積されていた情報をもとに瞬時に答えを導き出すところに特徴があります。でも検算してみれば、ボールの値段をXセントとすると「X+(X+100)=110」なので「X=5」となります。5セントが正解です。「システム2」は「システム1」が提案した考えや行動を監視し制御することが主な機能の一つです。「バットとボール問題に答えた大学生の数は数千人に上るが、結果は衝撃的だった。ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、プリンストン大学の学生のなんと50%以上が、直感的な、つまりまちがった答を出したのである」と報告されています。

(他にも盛りだくさんの事例がありますので本をご参照ください、っていうかkindle版出たんですね……本が分厚すぎて2冊もあるので電子書籍で買えばよかったです『ファスト&スロー(上)あなたの意思はどのように決まるか? 』『ファスト&スロー (下)』

話を戻せば、食べログで5段階の星でレビューするとき「うーん、サービスは星4つぐらいか」と深く考えず直感的で感情的に(システム1で)評価することが多いと思います。一方、それを意識的で論理的に(システム2で)言葉にすることでクチコミになるのだと思います。星を付けた後に文章を書くという順番がポイントです。ちなみに食べログではクチコミ投稿は200文字以上です。

5段階の星の数で人間の持つ“直感を可視化”できるネットって、実はすごいんじゃないのって思いました。クチコミを読むだけじゃコスパが高いか低いかは直感的にわからないし、クチコミを読み込むのが面倒ですよね。(※ちょうど一年前ぐらいにあった食べログのステマ問題は携帯電話番号認証ができたし、アルゴリズムが解決するだろうと勝手に思っているのでこのNOTEでは触れません!)

■他のレビューサイトはどうなっている?

ここでレビューサイトがどのように“直感を可視化”しているかを見てみましょう。

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Amazonは基本的に「5段階の星の数」と「クチコミ投稿(文章)」ですね。

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英語圏の食べログともいえるYelpもAmazonとほぼ同じ。同じく英語圏での展開がメインのトリップアドバイザーも同じですね。入力する評価項目が少ないとレビューが増えると予想できるので、レビューは質より量ということでしょうか。それとも英語圏が大雑把なのか、日本人が細かすぎるのでしょうか。

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トリップアドバイザーと同ジャンルの楽天トラベルフォートラベルは評価項目が6つに分かれています。楽天トラベルが「サービス」「立地」「部屋」「設備・アメニティ」「風呂」「食事」となっているのに対して、フォートラベルは「アクセス」「コストパフォーマンス」「接客対応」「客室」「風呂」「食事」「バリアフリー」と微妙に評価軸が違いますね。

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食べログといいフォートラベルといい、カカクコムグループは評価項目がしっかりしてますね。価格.comは製品の種類ごとに評価軸が異なります。Goo-netを見ると車の評価項目って面白いなーと思います。「外観のデザイン・ボディカラー」「内装・インテリアデザイン・質感」「走行性能」「燃費・経済性」「乗り心地」「装備」「価格」「満足度」の8項目でした。

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そういう意味で興味深かったのが同じカカクコムグループの映画.com。5段階の星に加えて「泣ける」「笑える」など12個の「印象」タグがあります。映画など映像は評価項目が多くすべて5段階にしてしまうときっと複雑過ぎるのですね。そういえばYouTubeやニコニコ動画などの動画サイトもタグが一つの評価になっていました。

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@cosmeも同じく、「うるおい」「ニキビ」「美白」など効果・機能のタグがありました。化粧品で大事なのは効果や機能だということでしょうか。自由に付けられるタグもあります。

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結婚式場は飲食店のように評価軸が明確ですね。「みんなのウェディング」「Wedding Park」ともに詳細な評価項目を持っています。「料理」「スタッフ」「進行演出」「式場設備」「場所」「費用」など。成長が止まりつつあるホットペッパー・ぐるなび vs 成長が著しい食べログのように、一強ともいえるリクルートのゼクシィが今後どうなるか注目です。

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株式上場をするリクルートの行く末を考えると、最年少上場企業社長の村上太一さん率いるリブセンスが最近はじめた「転職会議」というサイトは興味深いです。最大2万円のアルバイト採用祝い金+成果報酬で躍進した「ジョブセンス」も大成功でしたが、「転職会議」で行われつつあることはどうみても会社の食べログ化です。主な評価項目は「給与水準」「企業の安定性」「企業の成長性」「将来性」「仕事のやりがい」「企業の理念と浸透性」「ブランドイメージ」「社員の雰囲気」「入社難易度」「福利厚生」「教育、研修制度」など。サブで社風に関する項目があるのもすごいですね。入力が複数項目5段階評価の直感的な選択だけで出来る点も目を見張ります。ノイズとなる評価情報がきちんと淘汰されて機能するのかに要注目です。食べログを見れば一目瞭然ですが、情報が集まるところに人は集まるものなので、やり方によっては人材ビジネスが激変するかもしれませんね。

■食べログ化する日本

そう考えていくとCGM(Consumer Generated Media)が「クチコミサイト」と呼ばれる時点でミスリードな気がしてきます。たしかにクチコミによる言語化で検索エンジンには引っ掛かりやすくなるので必要な要素ですが、これからの時代“人間の主観的な認知の可視化”はもっと需要の増える要素ではないでしょうか。“直感の可視化”の方がひと目でわかりやすく情報の価値が高くて重要な気がします。(言い過ぎでしょうか?)

スマートフォンが普及しつつある今、人間はもっと“直感を可視化”してもいいと思います。言い換えれば、アトム(形あるモノ)がビット化(情報化)する余地はまだまだあるのではないでしょうか。先述の例では、特に会社をビット化しようとしている「転職会議」に期待してます。みん就(みんなの就職活動日記)のクチコミは就活情報としては役立ちましたが、そもそもの会社選びにはほとんど役に立たなかった記憶があるので。「若者はなぜ3年で辞めるのか」じゃないですが、会社情報の食べログ化は学生と会社のミスマッチの確率を下げる一つの方法になるのではないかと感じました。「文化となるWebサービスを、つくる」という会社のスローガンに偽りない感じですね。全力で日本の就活文化をぶっ壊してくれ。すごいぞリブセンス。

これからも日本の食べログ化、世界の食べログ化は進むのだろうなーと思います。いや、個人的に思い込んでいるだけかもしれません。もっと人間の“直感を可視化”できれば社会や文化が変わるかもしれない。そんな予感だけで久しぶりにNOTEを書いてみました。ITやネットが本当の意味で革命を起こすのはこれからが本番でしょう。

よたばなしかもしれませんが、人間を食べログ化できないだろうかと妄想することがあります。Twitterのフォロワー数でその人への興味を可視化するだけだと世の中がつまらなくなるんじゃないかと思うのです。ネットワーク効果により古参のTwitterユーザーほど有利なのは目に見えているし、古参ユーザーが偉そうにするだけだし(超偏見)。Amazonの5段階評価と原理的には似てますよね。0か1かの2段階評価というべきか。その意味では影響力を可視化するKloutも原理は同じです。マーケティング的にはいいのでしょうが、なんだかなー。つまらないです。(ツイートは面白くないけど)すばらしい人はたくさんいますよね。さらにいえば、人間は成長し続けるので「最近の評価(Recency)」に重みをつけるとか何らかのアルゴリズムがあった方がいいと思います。まあ、評価項目が何百本何千本もあると思うので不可能に近い話ですけど。SF小説のネタにどうぞ。

■告知と雑談など

ちょうどいいタイミングなので告知に協力したいと思うのですが、冒頭の記事「食べログの研究―レビューサイトがもたらした食文化と都市の風景」を書いた川口いしやさんが出演するニコニコ生放送が本日1月29日(火)このあと21時からあるみたいです。PLANETS編集長の宇野常寛さんに加えて、けんすうさん(!)が出るとか。内容は「LINE論」や「食べログ論」とのこと。2月9日(土)夜には宇野常寛さんのトークイベントもあるそうです。

思い出したように書くのですが、以前LINEについてNOTEに書いたように、LINEのスタンプこそ「システム1」の直感的で感情的な思いを言語化せずに伝える方法だったりしますよね。NOTEに「メールの文字を打つよりも先に、今の感情に近いスタンプを探す自分がいる」と書いたことは、今回の話にもつながっていたりします。その意味でLINEのスタンプが可視化しているものは人と人との非言語の絵文字によるコミュニケーションですが、人は好きな絵文字のキャラクターを選ぶので人のキャラクターの“好み(preference)”という直感も記述が可能かもしれません。キャラクターの好みをビット化できるとかちょー面白い予感がします。キャラクター市場は世界的にも有望な市場ですし「このキャラクターが好きな人はこのキャラクターも好き」とわかるとマーケティングもしやすいですよね。近い未来に日本人のキャラクターの好みと欧米のキャラクターの好みの差を記述できる状況とか、ソーシャルゲームにとってはキラーファクターになる予感がしますが、みなさまの意見はいかがでしょうか?

このNOTEは『PLANETS vol.8』「Chaotic Pod 2013 Tokyo」での議論から刺激を受けて書きました。いろいろな刺激をいただいたみなさまに感謝を申し上げます。ありがとうございました。そしてそろそろ本業の本をつくらないとって思います。本も動画と同じように評価項目が多すぎて5段階評価しかされてない典型ですね。ブクログが何とかしてくれないかなと期待。クラウドソーシングが流行っているので、クラウドパブリッシングな感じで電子書籍をつくってみたいのですが、このNOTEを興味を持って読んでいただけるような同じ方向性を持たれる著者の方、よろしければご連絡くださいw。あとクラウドパブリッシングのWebサイトをいっしょにつくってくれるプログラマーや編集者もw。そんなマッチングサイトあったら便利なのになー。

ご連絡や感想などははいつもどおりTwitter(http://twitter.com/ro_mi)やFacebook(http://www.facebook.com/hiromi.kubota)などを通じてお知らせください。事実誤認などあれば指摘していただけるとたいへんに助かります(ときどき本当にあります!)。

ではまた。

(初出:2013/1/29「NOTE by Hiromi Kubota」

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