感情はデザインできるのか?

先日、「TEDカンファレンス」を題材にプレゼンと英語を学ぶNHK番組「スーパープレゼンテーション」に関連するイベント「第7回スーパーハングアウト of アマンダ・パーマー」に参加しました。テーマは”クラウドファンディング”。ゲストは映画『ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの』の佐々木芽生監督でした。佐々木監督は、クラウドファンディングにより2,000人近い人びとから2,200万円もの資金を集めて話題となった人で、いろいろな話を伺うことができました。

話していて気づいたのは、マスプロダクツ(量産品)をつくりマーケティングを駆使して”売る”こと自体が、曲がり角を迎えつつあるんじゃないかなということです。図にしながら考えていきたいと思います。

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「ハーブ&ドロシー」が商品だとしたら、商品の種類は「映画チケット=2,000円」「DVD=5,000円「グッズ=3,000円」など全部購入してもせいぜい「1万円」ほどです。消費者が遣う総額(Total Amount)に大きな差は生まれません。どんなに「ハーブ&ドロシー」の熱狂的なファンでも、マスプロダクツでは使う金額の最大値が決まってしまいます。

ここで、ネット登場以降のビジネスにおける変化を振り返りたいと思います。2009年11月に刊行されベストセラーになったクリス・アンダーソン『フリー』では、”フリーミアム(Freemium)”という言葉を用いて、当時のビジネストレンドの変化を捉えています。

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“ビット経済ではデジタルで提供するコストが限りなく下がるため、95%をタダ(FREE)にしても5%のプレミアム会員などがお金を支払えば成り立つ”、という考え方です。今ではネットビジネスにおける常識的なものになっていると思います。つい先日も、レシピ投稿サイト「クックパッド」の月額294円(アプリからは350円)のプレミアム会員数が100万人を超えたことがニュースとなっていましたね。2013年4月の「のべ月間利用者数」が3,267万人なので、約3%がプレミアム会員ということでしょうか。

ここで確認したいのは、“何に対してお金を払っているか”です。クックパッド、ニコニコ動画、Evernote、食べログ、Amazonなど、プレミアム会員を採用するWebサービスは多いと思いますが、そのほとんどは「機能(function)」に対して課金をしているのではないでしょうか。「人気順に検索する」「容量が増える」「アクセシビリティが向上する」「早くモノが届く」などの機能です。ここでいう「機能」とは動詞(verbs)に置き換えられるものを指します。

振り返ってみると、1999年に登場したNTTドコモ「iモード」以来、レシピや占いコンテンツなど、モバイルではここからは有料ですよという「情報」へのペイウォール(paywall)でお金がとれた時代が続きました。一方でPCでは、docomoなど携帯電話キャリアが決済の機能を分担することで課金の手間が少ないケータイと異なり、「情報」からお金を取ることがむずかしく、基本的にコンテンツとしての「情報」は無料でした。集客力バツグンの無料コンテンツという「情報」を集積したポータルサイトが、まず全盛期を迎えます。やがて「情報」が爆発的に増えると、ポータルサイトから検索エンジンに集客の動線が移ります。その変化のなかでも、情報コンテンツへの課金モデルは定着しませんでした。

試行錯誤のなかで登場したのが、ユーザーの利便性という「機能」をマネージメントする課金モデルです。「情報」を無料にする、基本「機能」を無料にすることで集客し、付加価値の高い「機能」で課金するというこのモデルはユーザーに受け入れられ、定着し、順調にプレミアム会員数を増やしていきました。PCサイトを見られるスマートフォンが登場すると、さらに会員獲得の勢いを増しているようです。スマートフォンでは、「情報」そのものに課金するモデルはほとんど生き残っていません。クリス・アンダーソンの指摘の通り、「情報」は限りなくFREEになったわけです。

ただし、プレミアム会員のモデルは、ケータイiモードからつづく伝統の「一定金額のサブスクリプション(定期購読)」ですので、ひとりあたりの課金額をのばすというよりも、マスプロダクツのように有料会員の人数をとにかく増やすことがゴールとなっています。

近年、ケータイからスマートフォンに移行するなかで、もう一つの課金モデルが注目を集めるようになりました。主にソーシャルゲームで見られる、無料プレイで集客して、その後に”ひとりあたりの課金額をのばす”という、フリーミアム・モデルの進化系ともいえる課金モデルです。

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ゲームのなかでアイテムなどをお金(リアルマネー)で購入する(課金する)ユーザーを分類して、「無課金」「微課金」「重課金」「廃課金」といった言葉もあるぐらいですが、オンラインゲームやソーシャルゲームでは図のように、ひとりが支払うお金の金額に差があります。グラフ左にいけばいくほど遣う金額が高く、グラフ右にいけば無料($0)で楽しむユーザーがいます。あるアンケート調査では、いまや国民的ソーシャルゲームとなった「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」の課金ユーザーは約36%(無料ユーザーは約64%)となっています。1か月の平均購入金額で分類して課金ユーザーの割合から算出すると、「500円未満=8.8%」「500円以上1000円未満=9.1%」「1000円以上3000円未満=7.9%」「1万円以上=1.1%」となります(ただし同調査は「諸般の事情」により調査結果の公開を中止)。1か月に1万円以上もスマートフォンのゲームに費やすというのはすごいことだなと思いますが、「パズドラに◯◯万円遣った!」と告白するユーザーが後を絶たないぐらいですから、驚くほどのことではないのかもしれませんね。ゲームが大好きで、よりハマっている人から、お金をもらう図式がソーシャルゲームなどでは定着しつつあります。グラフの形が”切り立つ崖”のように見えるので「崖課金(Cliff charge)モデル」とでも呼びましょう(正式な呼び名があるのかは知りません)。

同じように“何に対してお金を払っているか”を確認しましょう。おそらく「崖課金モデル」では「感情(emotion)」に対して課金をしているといえるのではないでしょうか。「もっとプレイしたい」「もう少しでボスが倒せる」「いまプレイしないともったいない」「次のくじ引きでレアなアイテムが当たるかもしれない」などのユーザーが持つ「感情」です。

ここで「ハーブ&ドロシー」のクラウドファンディングの話に戻りたいのですが、1463万3703円を集めた「motion gallery」のプロジェクトページを見ると、実におもしろいことになっています。「映画チケット」「DVD」「グッズ」などのマスプロダクツがベース(基盤)となり、「プライベート試写会:100万円」「スペシャル食事会:30万円」「エンドロールお名前掲載:3万円」など、「ハーブ&ドロシー」が大好きなファンに向けて、多種多様なお金の遣い方が提案されているのです。

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クラウドファンディングには、「感情」に課金するモデルが組み込まれているのではないかと思いました。「映画チケット・DVD」というコンテンツ(情報+機能)と、「プライベート試写会・スペシャル食事会・エンドロールお名前掲載=うれしい、たのしい」という「感情」です。”すべり台”のような形をしているので「すべり台課金(Slide charge)モデル」と仮に呼びましょう。「ペア前売り券:3,000円」が361人いる一方で、「クリストのアートプリント:50万円」が6人、「プライベート試写会:100万円」が1人など人数は少なくなります。

もし、これが音楽のアーティストだったら「CDの中身=情報」をFREEにすることもできると思います(アマンダ・パーマーの例はこれです)。音楽は「LIVEチケット=盛り上がる感情」なので、そこでお金をとれるからです(映画館も「感情」を動かす空間に変わっていけばうまくいくかもしれませんね)。余談ですが、アーティスト自身がブログやTwitterなどソーシャルメディアで情報発信するようになり、ファンもソーシャルメディアで交流するようになったため、ファンクラブの存在も「情報」というより「希少なチケットをとる」という「機能」への課金になりつつありますよね。しかも、ファンクラブはサブスクリプションなので優秀な課金モデルだと思います。

さらに余談ですが、2年以上も前にAKB48はクラウドファンディングっぽいよね、というNOTEを書いたことがあります。今思えば、「情報+機能」であるはずのCDさえも総選挙や握手会などの「感情」に変換してしまうAKB48は、すごい課金モデルだと思います。YouTubeの公式チャンネル「AKB48 Official Channel!」でもシングルの曲はある程度は無料で聞けますものね。思うにAKB48の投票券付きCDもソーシャルゲームの回復薬と同じように、本当はすぐに消費してもらった方(目の前からなくなる方)が、人はもっとお金を遣うと思います。人間の感情は「損失>利益」を優先しますので(損失回避)、感情のおさまった後に「損した…」と後悔する可能性があるからです。小売における“下取りセール”の効果が高いのも、まったく同じ理由です。モノよりサービスという時代は近そうです。でもAKB48の場合は「オリコン歴代最高」というニュースがつくれればいいのか。余計なお世話ですね。

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さて、Webやアプリにおけるこれまでの議論の中心は“アーキテクチャ”であり、「情報」と「機能」であったのだと思います。しかし、たとえば最近の「売れるネット広告社」加藤公一レオさんの活動などをみると、もはや話のレベルが人間の認知や「感情」をどうデザインするのかという領域へ踏み込んでいるような気がしてなりません。「感情」でどのように消費を生み出すかという話は、「つながり消費」「共感消費」などと似ているようで、違うものではないかと考えています。「感情」は”つながり”がなくても、人間が一人いれば起こるものだからです。過去に「ゲーミフィケーション」というテーマでたくさんNOTEを書いてきましたが、ゲームがいちばん得意とするのがこの感情デザインなのかもしれないと考えるようになりました。

インターネットを前提とすると、マスプロダクツのほとんどは「情報(ビット)」に変換されてストックされます。たとえばAmazonや価格.comです。色、サイズ、重さ、生産国、仕様、価格、商品紹介など、すべては商品ページの「情報」となります。これはブランド品でも同じです。「情報」へと変換された瞬間に、それはユーザーに検索されて比較されるべき「機能」と同等になります。家電製品などの成熟商品には、もはやユーザーが求める新しい「機能」はなく、新しい商品を発表するたびに「情報」をつくり出しているような状態です。マスメディア全盛期には、企業側である程度フローする「情報」をコントロールすることで、人間を「情報」に欲望させる(「感情」を動かす)ことができました。しかし、ネットの登場により「情報」の流れは、ストックしつづけるWebと、フローするもののコントロールできないソーシャルメディアの2つがメインとなり、人間を欲望させることができなくなりつつあります。特にユーザーが行うレビューが、Webに「情報」としてストックされつづけていることは決定的です。最近では検索以外にもパーソナル化(personalization)による「情報」の整理も進んでいますが、コントロールできないという意味では同じです。

ソーシャルゲーム、クラウドファンディングなど「感情」からお金を生み出すネットビジネスの事例から、どのような普遍性を取り出せるのだろうかと考えるのが最近の関心ごとです。むかし、感情マーケティングが流行りましたが、主なテーマは、もはやメッセージの内容ではなく、テクノロジーとアカデミックな知性の総力戦なのだと思います。ネット選挙の解禁が騒がれ、参議院選挙の投票率に注目が集まるなか、どこかあまり投票率に期待していないのは「感情」が足りない気がするからです。仕組みや制度をいくら変えても、社会は変わりません。どうやって人間の感情を動かしていくのか。感情はデザインできるのか。今、興味を持って調べつづけているテーマはこれです。

雑談になりますが、このNOTEを書きながら2011年のFacebookカンファレンス「f8」「verbs(動詞)」を「Like(いいね!)」のようにボタンにしていくという試みをしていたことを思い出しました。たぶん立ち消えになったのだと思いますが、今回の話の文脈で考えれば動詞は「機能」です。今回の考察を深めてみて、むしろ「感情」を掘り下げることに可能性がある気がしました。もっとも、Facebookもメッセージにスタンプを導入しましたし、「感情」をどう可視化していくかが1つの方向性だと思います。何かをきっかけに、うまくいけば、企業が使う広告費は「機能」のGoogleから、「感情」のFacebookに移るような気がしています。なんだろう。すっごくおもしろい話ですよね。

今までのFacebookは“つながり(Network)”からお金を生み出そうとしすぎていたのではないかと思います。ソーシャルネットワークからお金を生み出そうとすると、どうしてもアムウェイに代表されるネットワークビジネスと同じような「人間関係をビジネスに利用するのか」という反発をともないます。ネットワークからお金を生み出すには、AmazonアフィリエイトのようにオープンWebで不特定多数の“つながり”の上に築かれるエコシステムでないと、「機能」させるのはむずかしいのではないでしょうか。この考察をしているところで自分の「感情」が盛り上がり「なんだFacebookってめちゃくちゃ可能性あるじゃん!!」と勢いあまり転職しようかとFacebookの採用ページを見たら英語だったので、月額4,980円のSkype英会話「ラングリッチ」を始めました。ビジネスで英語をつかったことがほとんどないんですよねー。それがドメスティックな出版社に勤めるということです(笑)。

ご連絡や感想などはいつもどおりTwitter(http://twitter.com/ro_mi)やFacebook(http://www.facebook.com/hiromi.kubota)などを通じてお知らせください。事実誤認などあれば指摘していただけるとたいへんに助かります(ときどき本当にあります)。ではまた。

(初出:2013/7/8「NOTE by Hiromi Kubota」

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